2014年10月アーカイブ

退職時の証明等

Q.退職願に事実と異なる退職事由が記載されています。受理しても問題ないでしょうか?

無断欠勤を繰り返し顧客ともトラブルを起こすなど、好ましくない労働者がいます。見かねた上司が注意すると、逆に、「パワハラだ」などと騒ぎ立てる始末です。

就業規則に基づき懲戒処分を検討中のところ、本人から退職願が提出されました。それを見ると、退職事由として「上司のパワハラにより心身不調に陥ったため」とあります。辞めてもらいたいことは山々ですが、そのまま受理して後日問題となることはないでしょうか?

 

A.退職願の内容は労働者の自由意思ですから、受理したといって、事業主がそれを事実と認めたことにはなりません

先に結論を言うと、そのまま受理して自己都合退職扱いとすることに、何ら問題はありません。

退職願とは、労働者と事業主との合意に基づく労働契約を、労働者側の申出により終了させることです。退職願の内容、すなわち退職すること自体、退職時期、退職事由等は、原則として当該労働者の自由意思に委ねられています。それに対して事業主側は、例えば、有期労働契約の期限前の退職により損害が生じたとき、賠償を求めること等はできるものの、退職願の内容について変更を強制することはできず、また、受理を拒むこともできません。

ただし、受理したからといって、事業主が退職願の内容をすべて事実として認めたことにはなりません。事業主は、労働者にもはや勤務を継続する意思がないことを確認したに過ぎず、退職事由は単に労働者の見解というにとどまります。

 

A.退職時証明書に退職事由の記載を請求されたときは、「自己都合退職」の旨を記載します

使用者(事業主)は、労働者が退職するにあたり退職時証明書を求めたとき、これを遅滞なく交付しなければなりません(労働基準法第22条第1項)。証明書の内容は、(1)使用期間 (2)業務の種類 (3)その事業における地位、賃金 (4)退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む) のうち労働者が請求する事項で、「請求のない事項を記入してならない(同法同条第3項)」とされています。

退職時証明書による証明事項は、労働者の請求があったものに限られますが、その内容は事業主の責任であり、労働者と合意したうえで作成する必要はありません。

したがって、設問のケースで労働者から退職時証明書の請求があり、かつ、退職の事由についても請求があったとき、事業主としては「自己都合による退職」である旨を記載すれば、労基法上の義務を果たしたことになります。退職願の退職事由と退職時証明書の退職事由が異なっていても、それは労働者と事業主との見解の相違であると言うに過ぎません。

 

A.退職時証明書に事実と異なる記載をすると、後日大きなトラブルを招く恐れがあります

退職時証明書は、一義的には再就職活動に用いるものと考えられますが、退職に関わる労働紛争に使用される可能性もあります。

したがって、交付時に労働者とのあつれきを回避しようとして「退職勧奨による退職」など、事実と異なる記載をすれば、労基法上の義務違反にあたるばかりか、それを証拠として新たなトラブルを招くことにもなりかねません。

繰り返すと、退職願の退職事由は労働者の見解であり証拠能力はありません。これに対し、退職時証明書は事業主が作成するもので、事業主はその内容について責を問われることとなります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

定額残業代制

Q.給料計算の簡素化ため、定額残業代制を導入したいのですが、注意すべき点はありますか?

小売業を営んでいます。従業員は6名で、給料計算は事業主である私が行っています。賃金は完全月給制で、欠勤しても賃金の控除はありません。残業代は、賃金の締切日毎にタイムカードを集計して支払っています。残業代の計算に時間を要するため、定額残業代制の導入を検討しています。そうすれば、月々計算する必要がなくなり、事務処理の簡素化につながると考えました。採用する際の注意点は、どんなことがありますか?

 

A.労働条件の不利益変更への対応や、定額残業代といえども賃金の清算が発生するケースがあることに注意が必要です

定額残業代制は、割増賃金を、実際の時間外労働の時間数に応じて支払うのではなく、例えば月3万円などとして固定額で支払うことです。毎月の額が決まっているため、賃金の締切日毎に計算をする必要がなく、給与事務処理の観点からは便利な方法といえます。

定額残業代制を新たに導入するときは、次の点に注意が必要です。

(1)就業規則の変更(就業規則がないときは個々の労働者の同意)

(2)就業規則や給料明細には、定額残業代の額とその対象となる時間を明示すること

(3)示した時間より実労働時間が多かったときは、その差額を支払うこと

(4)労働時間の管理は従来どおり

以下、それぞれについて。少し詳しく説明します。

(1)定額残業代制の導入は、重要な労働条件である賃金の内容や性質を変更するもので、労働条件の変更にあたります。導入を予定している定額残業代制の具体的な内容が、労働者にとって不利と考えられるとき、労働条件の不利益変更となり、予め労働者個々人の同意を得ることが必要です。

仮に同意が得られなかったとしても、事業主固有の権限として、就業規則の変更により定額残業代制を導入することは可能です。しかし、訴訟等に至ったとき、事業主は当該変更に合理的理由があったことを立証しなければならず、現実にはなかなか難しいと言えそうです。

(2)就業規則等及び給料明細書において、定額残業代が何時間分の時間外労働に相当するか、労働者に明示することが必要です。明示がないと、それは定額残業代と認められません。そうなると、仮に労働者から割増賃金未払の請求があったとき、定額残業代相当分も賃金の一部として割増賃金の算定基礎に組み入れられ、支払が高額になってしまいます。

(3)実際に行われた時間外労働に対して、定額残業代の額が、労働基準法に定める支払うべき割増賃金額を下回っていれば、それは違法にあたります。足りない分は、必ず差額を支払わなければなりません。

(4)定額残業代制を導入しても、事業主は労働者の実際の労働時間を把握しなければなりません。給与事務処理はともかく、労働時間の管理についても簡素化が図れるものではありません。

今後、給与事務処理の簡素化を目的として定額残業代を導入するのであれば、日頃の時間外労働の実態をきちんと把握した上で、実際よりも多めの残業代を設定することが必要です。

このように見ていくと、定額残業代制の導入は、期待するほど事務処理の簡素化に結び付くか、いささか疑義があると言えそうです。

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