定額残業代制

Q.給料計算の簡素化ため、定額残業代制を導入したいのですが、注意すべき点はありますか?

小売業を営んでいます。従業員は6名で、給料計算は事業主である私が行っています。賃金は完全月給制で、欠勤しても賃金の控除はありません。残業代は、賃金の締切日毎にタイムカードを集計して支払っています。残業代の計算に時間を要するため、定額残業代制の導入を検討しています。そうすれば、月々計算する必要がなくなり、事務処理の簡素化につながると考えました。採用する際の注意点は、どんなことがありますか?

 

A.労働条件の不利益変更への対応や、定額残業代といえども賃金の清算が発生するケースがあることに注意が必要です

定額残業代制は、割増賃金を、実際の時間外労働の時間数に応じて支払うのではなく、例えば月3万円などとして固定額で支払うことです。毎月の額が決まっているため、賃金の締切日毎に計算をする必要がなく、給与事務処理の観点からは便利な方法といえます。

定額残業代制を新たに導入するときは、次の点に注意が必要です。

(1)就業規則の変更(就業規則がないときは個々の労働者の同意)

(2)就業規則や給料明細には、定額残業代の額とその対象となる時間を明示すること

(3)示した時間より実労働時間が多かったときは、その差額を支払うこと

(4)労働時間の管理は従来どおり

以下、それぞれについて。少し詳しく説明します。

(1)定額残業代制の導入は、重要な労働条件である賃金の内容や性質を変更するもので、労働条件の変更にあたります。導入を予定している定額残業代制の具体的な内容が、労働者にとって不利と考えられるとき、労働条件の不利益変更となり、予め労働者個々人の同意を得ることが必要です。

仮に同意が得られなかったとしても、事業主固有の権限として、就業規則の変更により定額残業代制を導入することは可能です。しかし、訴訟等に至ったとき、事業主は当該変更に合理的理由があったことを立証しなければならず、現実にはなかなか難しいと言えそうです。

(2)就業規則等及び給料明細書において、定額残業代が何時間分の時間外労働に相当するか、労働者に明示することが必要です。明示がないと、それは定額残業代と認められません。そうなると、仮に労働者から割増賃金未払の請求があったとき、定額残業代相当分も賃金の一部として割増賃金の算定基礎に組み入れられ、支払が高額になってしまいます。

(3)実際に行われた時間外労働に対して、定額残業代の額が、労働基準法に定める支払うべき割増賃金額を下回っていれば、それは違法にあたります。足りない分は、必ず差額を支払わなければなりません。

(4)定額残業代制を導入しても、事業主は労働者の実際の労働時間を把握しなければなりません。給与事務処理はともかく、労働時間の管理についても簡素化が図れるものではありません。

今後、給与事務処理の簡素化を目的として定額残業代を導入するのであれば、日頃の時間外労働の実態をきちんと把握した上で、実際よりも多めの残業代を設定することが必要です。

このように見ていくと、定額残業代制の導入は、期待するほど事務処理の簡素化に結び付くか、いささか疑義があると言えそうです。

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