2018年11月アーカイブ

定額残業代に相当する残業時間の明示は、必須の要件ではなくなりました(最高裁第一小法廷判決 平成30年7月19日

定額残業代に相当する残業時間等を明示することは、これまで定額残業代制度(以下「同制度」と言います。)が成立する要件とされ、私自身も、給与明細に定額残業代の単価及び時間数を明記するようお願いしてきました。しかし、本判決により、必須の要件ではないことが示されました。このことは、司法による同制度の過度の規制に歯止めがかかったと捉えることができ、同制度活用への追い風となりそうです。

《本件の概要》

(1)被上告人は薬剤師として、上告人が運営する薬局で、平成25年1月21日から平成26年3月31日まで勤務していた。

(2)雇用契約書に記載の賃金は、基本給46万1,500円、業務手当10万1,000円であった。また、採用条件確認通知書には、「月額給与461,500円」、「業務手当101,000円みなし時間外手当」、「時間外勤務手当の取扱年収に見込み残業代を含む」、「時間外手当は、みなし残業時間を超えた場合はこの限りではない」との記載があった。一方、上告人の賃金規定には、「業務手当は、一賃金支払期において時間外労働があったものとして、時間手当の代わりとして支給する」との記載があった。

(3)被上告人は、休憩時間に30分間業務に従事していたが、その時間管理はされていなかった。

(4)上告人が被上告人に交付した毎月の給与支給明細書には、時間外労働時間や時給単価を記載する欄があったが、これらの欄はほほ全ての月において空欄であった。

(5)被上告人は、業務手当が何時間分の時間外手当に当たるのか分らないこと、及び休憩時間中の労働時間を管理し調査する仕組みがないため、時間外労働の合計時間を確認することができないこと等から、業務手当を上回る時間外労働が発生しているか否か判別できないとして、業務手当を残業代の支払とみなすことはできないと主張し、残業代等の支払を請求した。

(6)控訴審における判決は、被上告人の主張を認め、定額残業代制度は無効であったとして、支払請求を一部容認した。

《判決の要旨》

(1)雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否は、労働契約に係る契約書等の記載内容の他、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況等の事情を考慮して判断すべきで、相当する労働時間を示すことは必須の要件と言えない。

(2)本件では、雇用契約書及び採用条件確認書並びに賃金規程において、月々支払われる所定賃金のうち業務手当が時間外労働に対する対価として支払われる旨記載されていた。したがって、賃金体系においては、業務手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものと位置付けられていたと言える。

(3)被上告人に支払われた業務手当は、約28時間分の時間外労働に対する割増賃金に相当することが算出でき、被上告人の実際の時間外労働等の状況と大きく乖離していない。

(4)したがって、業務手当の支払が残業代の支払に当たらないとする控訴審の判断は、割増賃金に関する解釈適用を誤った違法がある。

《本判決と実務》

被上告人の労働時間管理は、タイムカードに出勤時刻と退勤時刻のみを打刻しており、それらの時刻から所定労働時間を差し引くことによって、残業時間を算出することができました。また、契約書等に定額残業代に相当する業務手当は何時間分かの記載はなかったものの、その計算は容易であり、定額残業代を超える労働の有無についても明確に判断できるものでした。本判決により、定額残業代に相当する時間数の明示は必須要件ではなくなりましたが、正しい計算を行なっていることの論証は、今後とも不可欠です。


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