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Q.従業員から副業の申出がありました。就業規則に則り拒否してもよいですか?

卸売業を営んでいます。従業員は20名。所定労働時間は一日7時間。休日は土曜・日曜。週の所定労働時間は35時間と定めています。さて、当社は就業規則において、従業員の副業・兼業を禁止しています。ところが、ある従業員から会社の休日にコンビニで働きたいとの申出がありました。子どもの学費の足しに、少しでも多く収入を得たいという理由です。就業規則どおりに拒否したいのですが、法的に問題はありますか?

 

A.就業規則を根拠として一律に拒否することは困難で、事案ごとに検討・対応する必要があります

厚生労働省・労働政策審議会安全衛生分科会の「副業・兼業に関する事業所調査結果(令和2年7月31日)」によれば、正社員の副業・兼業について、「医療・福祉」を除き、「認めていない」と回答した事業所の割合は「認めている」とした事業所を上回ったのに対して、非正規社員については、「複合サービス業」を除き、「認めている」事業所が「認めていない」事業所を上回りました。実際に副業・兼業を行っている労働者は、正社員・非正規社員全体で9.7%、希望する労働者は年々増加傾向とされています。

一方、判例等を見ると、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に自由であることから、会社が就業規則に則り 副業・兼業を認めないときは不法行為が成立するとして、損害賠償を命じた事例があります(東京都私立大学教授懲戒解雇事件(平成19年東京地裁)、マンナ運輸事件(平成24年京都地裁)。

また、厚生労働省のモデル就業規則は、労働者の副業・兼業を認める規定を定めています。

こうした中、厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン(平成30年1月策定)」が令和2年9月に改訂されました。

〇 副業・兼業における労働者のメリット

・離職せずとも別の仕事に就くことが可能となり、スキルや経験を得ることで、労働者が主体的にキャリアを形成することができる。

・本業の所得を活かして、自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追求することができる。

・所得が増加する。

・本業を続けつつ、よりリスクの小さい形で将来の起業・転職に向けた準備・試行ができる。

〇 企業のメリット

・労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得できる。

・労働者の自律性・自主性を促すことができる。

・優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する。

・労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながる。

ディメリットについての記述は、ガイドライン上ありませんでした。私見では、メリットは労働者に大きく、企業にいささか小さいとも感じます。皆さんはいかがでしょうか?

なお、同ガイドラインは、例外的に副業・兼業の禁止又は制限が認められる場合として、次の4つを示しています。

①労務提供上の支障がある場合 ②業務上の秘密が漏洩する場合 ③競業により自社の利益が害される場合 ④自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

司法面・行政面において、労働者の副業・兼業を原則肯定する方向にある中、就業規則の副業・兼業禁止規定を根拠に一律に拒否することは、もはや困難です。従業員が希望する副業・兼業の内容等を具体的に確認した上で、上記①~④のいずれにも該当しないのであれば、認めざるを得ないと考える次第です。

 

Q.65歳の方の雇入れを検討しています。労務管理上注意すべきことはありますか?

託児所を経営する者です。先日、従業員を募集したところ、初めて65歳を超えた方から応募がありました。定年後にこれまでの経験を活かしつつ、新しい環境でチャレンジしたいとのことです。人柄も良いと見受けられ、採用を前向きに検討しています。高年齢者を雇い入れる際、労務管理上何か注意すべきこと等はありますか?

 

A.雇用保険、健康保険、厚生年金それぞれに留意すべきことがあります

超高齢社会を迎えるわが国においては、高年齢者の労働力を確保することが不可欠です。昨年秋に日本経済新聞社が実施した世論調査によれば、60歳代の54%が70歳以上まで働きたいと回答しています。政府も70歳までの雇用に向けて様々な取組みを始めており、近い将来、65歳以上の高年齢労働者が働く企業が当たり前となるかもしれません。そこで、65歳を超えた高年齢者を雇い入れる際の労働・社会法令関係においての注意点をご案内します。

(1)雇用保険について

65歳以上の方が、次の①、②の要件を満たした場合、雇用保険に加入します。

① 週の所定労働時間が20時間以上

② 31日以上継続して雇用が見込まれる

現在、労働保険料の保険料の徴収等に関する法律第11条の2に基づいて、年度初め(4月1日時点)に64歳以上の方は雇用保険料が事業主及び被保険者とも免除されています。令和2年4月1日以降、この規定は廃止され、全ての被保険者に保険料が発生します。

(2)健康保険の介護保険料について

介護保険料は40歳以上の方が納付しますが、40歳以上64歳までの方は、健康保険の第2号被保険者として、給与から天引きされます。それに対して、65歳以上の方の介護保険料は、年金から差し引いて徴収されます。こうしたことから、給与計算の際に誤って天引きしないよう、注意する必要があります。

(3)配偶者の年金について

健康保険の加入者(第2号被保険者)の配偶者は、本人が60歳未満、かつ、年収130万円未満など、一定の要件を満たす場合、国民年金の第3号被保険者となり、第3号被保険者は保険料負担がありません。ところで、第2号被保険者には年齢制限があり、65歳以上の方はなれません。それまで自らは第2号被保険者、配偶者が第3号被保険者であった方が65歳を迎えたとき、配偶者が未だ60歳未満の場合、配偶者自身が国民年金の第1号被保険者となる手続が必要です。しばしば見落とされているので、注意しましょう。

(4)活用できる助成金について

次の①、②の要件を満たした場合、厚生労働省の特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)を活用することができます。

① ハローワーク又は民間の職業紹介事業者等の紹介により雇い入れること。

② 65歳以上の高年齢被保険者として雇い入れ、1年以上雇用することが確実であると認められること。

支給額は下記のとおりで( )は中小事業主以外に対するものです。

《特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)》

支給対象者        支給額     助成対象期間

短時間労働者外の者   70万円(60万円)  1年

短時間労働者      50万円(40万円)  1年

「令和元年台風第1519号による被害に伴う労働基準法や労働契約法に関するQ&A(厚生労働省)」から抜粋してお知らせします。

台風の影響に伴う休業に関する取扱いについて

Q1 今回の台風に伴う風水害等により、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け労働者を休業させる場合、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」による休業に当たりますか?

A1 労働基準法第26条は、使用者の責に帰すべき事由による休業のとき、使用者は休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないと定めています。ただし、天災事変など不可抗力の場合は、使用者の責に帰すべき事由に当たらないので、支払義務はありません。そこで設問のケースですが、休業の原因は事業主の関与の範囲外のものであり、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてなお避けることのできない事故に該当すると考えられます。したがって、原則として、使用者の責に帰すべき事由による休業には当たりません

Q2 今回の台風による事業場の施設・設備は直接的な被害を免れましたが、取引先や鉄道・道路等の被災により、原材料の仕入や製品の納入等が不可能となり、労働者を休業させる場合、「使用者の責に帰すべき事由」による休業に当たりますか?

A2 事業場の施設・設備が直接的な被害を免れた場合は、原則として、「使用者の責に帰すべき事由」による休業に当たると考えられます。ただし、当該休業について、①その原因が事業の外部より発生した事故であること ②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること の二つの要件を満たす場合、例外的に「使用者の責に帰すべき事由」による休業に当たらないこともあり得ます。具体的には、取引先への依存の程度、輸送経路の状況、代替手段の可能性、災害発生からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案して判断する必要があると考えられます。

 

労働基準法第36条(時間外・休日労働協定)について

 台風に伴い十分な企業活動ができなかったため、その後業務量が増加し、36協定で定めた延長時間を超えそうです。どのように対応すればいいでしょうか?

A 36協定を締結し届け出ている以上、それに定める範囲を超えて時間外労働をさせることはできません。範囲を超えた時間外労働を可能とするためには、改めて36協定を締結し直し、届け出る必要があります。

 

労働基準法第39条(年次有給休暇)について

Q 今回の台風によって会社の事業が滞り、当面の業務量が大幅に減少しているとして、年次有給休暇を取得するよう求められています。どうすればいいでしょうか?

A 年次有給休暇は、労働者が請求する時季に、使用者はこれを与えなければならないと定められています。使用者は、労働者に対して、年次有給休暇の取得を命じることはできません。

 

その他(賃金)について

Q 今回の台風の被害に伴って労働者が出勤できなかった場合、出勤しなかった日の賃金を支払う必要はありますか?

 労働契約や労働協約、就業規則等に労働者が出勤できなかった場合の賃金の支払について定めがある場合は、それに従う必要があります。一方、このような定めがない場合、ノーワークノーペイの原則から、支払は不要とも考えられます。ただし、労使で十分に話し合うなどして、労働者の不利益をできる限り回避するよう努力することが大切です

特定求職者雇用開発助成金(安定雇用実現コース)について

いわゆる就職氷河期に正規雇用の機会を逃したこと等により、十分なキャリア形成がなされず正規雇用に就くことが困難な方を、ハローワーク等の紹介により、正規雇用労働者として雇い入れる事業主に対する助成です。

対象となる労働者は、次の(1)~(4)全てに当てはまる方です。

(1)雇入れ時点の年齢が満35歳以上60歳未満

(2)正規雇用労働者として雇用された期間を通算した期間が1年以下であり、雇入れ日の前日から起算して過去1年間に正規雇用労働者として雇用されたことがない

(3)ハローワークまたは民間の職業紹介事業者などの紹介の時点で失業状態にある

(4)正規雇用労働者として雇用されることを希望している

留意点は、本助成金の対象労働者であることをあらかじめ把握せずに雇い入れた場合、助成金の対象とならないことです。

助成額はとおりです。

大企業   支給総額 50万円(第1期25万円+第2期25万円)

中小企業  支給総額 60万円(第1期30万円+第2期30万円)

尚、支給対象期間は大企業及び中小企業とも1年間です。また、雇い入れ日から起算した最初の6カ月間を第1期、以降の6カ月間を第2期と言います。

 

治療と仕事の両立支援助成金(制度活用コース)について

がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎など反復・継続して治療が必要となる疾病を負った労働者に対し、治療と仕事の両立の支援に資する「一定の就業上の措置」を講じた事業主に対し助成されます。

「一定の措置」としては、①時間単位の年次有給休暇付与 ②傷病休暇制度等(有給、無給問わない) ③フレックスタイム制度、時差出勤制度、短時間勤務制度、在宅勤務制度等 が挙げられます。1企業当たり、期間の定めのない労働者及び有期契約労働者それぞれにつき200,000円を1回限り助成されます。

また、手続の流れは次のとおりです。

ア 労働者に適用させる両立支援制度等の概要の作成

イ 両立支援制度活用計画の認定申請を労働者健康安全機構へ提出

ウ 両立支援制度活用計画認定通知の受取

エ 両立支援制度の実施:治療と仕事の両立支援助成金(制度活用コース)支給を労働者健康安全機構へ申請

オ 助成金支給決定通知の受取・助成金受領

留意すべきこととして、当該労働者は、制度活用計画期間において6カ月以上雇用が維持されていること、及び制度活用計画期間において月平均5日以上勤務していることが必要です。

また、支援計画の作成は、両立支援両立支援コーディネイタ(コーディネイータ要請研修を受講終了した者)が行う必要があります。

定額残業代に相当する残業時間の明示は、必須の要件ではなくなりました(最高裁第一小法廷判決 平成30年7月19日

定額残業代に相当する残業時間等を明示することは、これまで定額残業代制度(以下「同制度」と言います。)が成立する要件とされ、私自身も、給与明細に定額残業代の単価及び時間数を明記するようお願いしてきました。しかし、本判決により、必須の要件ではないことが示されました。このことは、司法による同制度の過度の規制に歯止めがかかったと捉えることができ、同制度活用への追い風となりそうです。

《本件の概要》

(1)被上告人は薬剤師として、上告人が運営する薬局で、平成25年1月21日から平成26年3月31日まで勤務していた。

(2)雇用契約書に記載の賃金は、基本給46万1,500円、業務手当10万1,000円であった。また、採用条件確認通知書には、「月額給与461,500円」、「業務手当101,000円みなし時間外手当」、「時間外勤務手当の取扱年収に見込み残業代を含む」、「時間外手当は、みなし残業時間を超えた場合はこの限りではない」との記載があった。一方、上告人の賃金規定には、「業務手当は、一賃金支払期において時間外労働があったものとして、時間手当の代わりとして支給する」との記載があった。

(3)被上告人は、休憩時間に30分間業務に従事していたが、その時間管理はされていなかった。

(4)上告人が被上告人に交付した毎月の給与支給明細書には、時間外労働時間や時給単価を記載する欄があったが、これらの欄はほほ全ての月において空欄であった。

(5)被上告人は、業務手当が何時間分の時間外手当に当たるのか分らないこと、及び休憩時間中の労働時間を管理し調査する仕組みがないため、時間外労働の合計時間を確認することができないこと等から、業務手当を上回る時間外労働が発生しているか否か判別できないとして、業務手当を残業代の支払とみなすことはできないと主張し、残業代等の支払を請求した。

(6)控訴審における判決は、被上告人の主張を認め、定額残業代制度は無効であったとして、支払請求を一部容認した。

《判決の要旨》

(1)雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否は、労働契約に係る契約書等の記載内容の他、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況等の事情を考慮して判断すべきで、相当する労働時間を示すことは必須の要件と言えない。

(2)本件では、雇用契約書及び採用条件確認書並びに賃金規程において、月々支払われる所定賃金のうち業務手当が時間外労働に対する対価として支払われる旨記載されていた。したがって、賃金体系においては、業務手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものと位置付けられていたと言える。

(3)被上告人に支払われた業務手当は、約28時間分の時間外労働に対する割増賃金に相当することが算出でき、被上告人の実際の時間外労働等の状況と大きく乖離していない。

(4)したがって、業務手当の支払が残業代の支払に当たらないとする控訴審の判断は、割増賃金に関する解釈適用を誤った違法がある。

《本判決と実務》

被上告人の労働時間管理は、タイムカードに出勤時刻と退勤時刻のみを打刻しており、それらの時刻から所定労働時間を差し引くことによって、残業時間を算出することができました。また、契約書等に定額残業代に相当する業務手当は何時間分かの記載はなかったものの、その計算は容易であり、定額残業代を超える労働の有無についても明確に判断できるものでした。本判決により、定額残業代に相当する時間数の明示は必須要件ではなくなりましたが、正しい計算を行なっていることの論証は、今後とも不可欠です。


有給休暇の賃金

Q.有給休暇の賃金が一日の賃金より低額でしたが、違法ではありませんか?

私は、派遣社員として働いています。母も、別の会社で派遣社員として働くようになり、先日初めて有給休暇を取得しました。母の有給休暇の賃金について明細が添付されていましたが、一日労働した場合の賃金より低い金額で計算されていました。なんでも、過去3か月の給与の平均ということす。私の場合は、有給休暇を取得しても、一日分の賃金が満額支給されます。母の会社の取扱に疑問を感じています

 

A. 有給休暇の賃金を平均賃金で支払うことは違法ではありません。

有給休暇についてのトラブルは今日でも後を絶ちません。その多くは、事業主の有給休暇に関する知識不足によるものです。よくある間違いは、パートやアルバイトには有給休暇は発生しない。また、従業員からの有給休暇取得の申出を断ることが出来る。といった内容です。

労働基準法第39条は有給休暇の規定ですが、

「使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。」と定めています。

尚、労働日数の短い労働者(パートやアルバイト等)については、別途、それぞれ労働日数に応じた日数が定められています。例えば、週に一日勤務する労働者では、上記規定を満たした場合は、1日労働日の有給休暇を与えなければなりません。有給休暇の日数は労働時間とは関係ありません。あくまでも労働日数を基準に定められています。

また、労働者が有給休暇を請求した場合、使用者はその請求を断ることはできません。ただし、そのことで事業が回らなくなる等、やむを得ない事情があるときは別の日に変更してもらうことは可能です。

さて、有給休暇の日の賃金ですが、同法で

「有給休暇の時間については、就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより、それぞれ、平均賃金もしくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金(中略)を支払わなければならない。」と定められています。

結論を申し上げると、娘さんの派遣会社は有給休暇の時間を所定労働時間労働した場合支払われる通常の賃金を支払う定めをしており

お母さんの派遣会社は平均賃金を支払う定めをしているということです。つまり、お母さんの派遣会社の取扱に違法性はありません。

因みに時給1000円で労働時間が一日8時間、月22日勤務する方を例に計算すると (有給休暇を12月取得と仮定)

・所定労働時間労働した場合の通常賃金は8000

・平均賃金は、5,802円 (8000円×22日)÷(30+31+30日)

となり、平均賃金の方が低額になります。

 


 



 


Q.解雇予告期間中、業務災害が生じた場合、解雇日を変更する必要はありますか?

製造業を営んでいます。先日、ある従業員が、不注意から機械の操作を誤り、大量の不良品を発生させてしまいました。当社の就業規則には懲戒解雇の規定がないので、1221日に解雇予告を行い、翌年121日付で解雇することとしました。ところが、118日、この従業員が機械に接触して受傷する業務災害が発生しました。療養に1か月以上を要し、出勤可能となるのは早くても31日との診断です。このような場合、既に解雇予告を行った後であっても、解雇日を変更する必要はありますか?また、変更する必要があれば、具体的にはどうするべきでしょうか?

 

A.解雇予告後であっても、業務災害により休業する期間及びその後30日間は「解雇制限期間」となります

懲戒解雇であれば、処分が告知された時点で即時に効力を発揮し、猶予期間等を設ける必要もありません。しかし、設問のように、懲戒解雇について就業規則等で定めていなければ、処分は行えないとされます。これは、懲戒が企業組織内の秩序保持義務違反に対する制裁罰であることにかんがみ、刑法における罪刑法定主義の考え方を準用するものと捉えることができます。

 

さて、通常の解雇であれば、労働基準法(以下「同法」と言います。)第20条に定めるとおり、少なくとも30日前に予告をしなければなりません。予告期間は、民法の一般原則に則り、予告日の翌日より起算して暦日30日を満了するまでで、その翌日が解雇の効力発生日にあたります。要するに、予告日から解雇日までの間に中30日を設ける必要があり、暦日ですから、休日や休業日を除く必要はありません。

一方、同法第19条は「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間(中略)は、解雇してはならない。」と定めているので、この設問は、同法第20条と第19条が競合した場合の考え方を問うものと言えます。

 

結論から言うと、その場合は第19条が優先され、既に解雇予告を行った後で、その予告期間が満了に近づいていたとしても、それらは一切考慮されないこととなります。

 

設問の場合であれば、業務災害が発生した118日からその療養のために休業した期間、及び出勤するか又は出勤可能な状態となった日から起算して暦日30日を満了するまでの期間は、解雇制限期間として解雇を行うことはできません。なお、「療養」とは治癒(症状固定)であり、同法及び労働災害保険法上の療養・休業補償の対象と同じです。治癒後の通院等があっても、その分を延長する必要はありません。

 

それでは、仮に、業務災害にあった労働者が、 期間の定めのある労働契約を締結している者であって、療養期間中に契約期間が満了した場合はどうでしょう?

その場合、期間満了による労働契約の終了(雇止め)は解雇にあたらないため、解雇制限期間は適用されません。したがって、仮に療養期間中であっても、満了に伴い自然に契約終了することとなります。

 


 



 

 

Q.メンタル不調を理由とする退職の申出がありました。後日にトラブル等にならないため留意すべき点はありますか?

先日、ある従業員から突然退職届が提出されました。理由を尋ねると、抑うつ症状が続いており精神科を受診中との説明です。上司に確認したところ、勤務成績は良好で、上司や同僚との折り合い等の点でも思い当たる節はないとのことです。念のため過去1年の超過勤務実績を調べると、最も多い月でも15時間未満で、長時間労働の実態は見受けられません。近年、従業員のメンタル不調について、会社側の責任が厳しく問われる事例をよく耳にします。後日にトラブル等にならないためには、どのような点に留意すべきでしょう?例えば、当社は病気休職制度を就業規則で定めています。慰留し、いったん休職措置を採った上で、その後に退職手続とした方がいいでしょうか?


 

A.先ずは使用者の安全配慮義務違反がなかったか確認することが大切です

労働者が業務を遂行する過程において、使用者は労働者の生命及び身体等を危険から保護する安全配慮義務があります。具体的には労働安全衛生法など関係法令の遵守や、メンタル面に関しては長時間労働、業務上のストレス、パワハラなど職場内のストレス等によって、健康が損なわれることがないよう努めなければなりません。

そこで設問を見ると、勤務成績の低下など思い当たる節はなかったし、長時間労働の実態もありませんでした。仮に、上司が従業員のメンタル不調又は長時間労働等に気づいていながら、何らの対応もしなかったとすれば、不調の原因はさておいても、対応上の不備を問われる懸念があります。しかし、設問の記述限りでは、そうした恐れは少ないものと考えられます。

一方、メンタル不調を理由とする退職の場合、後日、意思表示の瑕疵を理由に、取消又は無効を主張される可能性があります。例えば、メンタル不調のために判断能力が著しく減退した状態で、使用者側の詐欺又は強迫により退職届を提出させられたとして取消(民法第96条)を主張されるケースです。また、メンタル不調で就労できないと直ちに解雇されるとの錯誤により退職届を提出したとして無効(民法第95条)を主張されること等も考えられます。

これらのトラブル防止のため、従業員が退職の意思を示したときは、丁寧にコミュニケーションを取りその内容を記録した上で、退職願又は退職届を文書で提出させることが重要です。その観点から改めて設問を見ると、既に退職届が提出されているので、従業員及び上司への聞き取り結果等を記録しておけばいいでしょう。また、病気休職制度を就業規則に定めて周知しているので、前述の錯誤の主張にも対抗できると考えられます。そもそも退職の意思が示されたとき、使用者側に慰留する義務はありません。意思を確認できれば、敢えて慰留や休職制度の教示又は適用等は不要です。

 

「退職願」、「退職届」、「辞表」どう違う?

多くの会社は就業規則等で退職に関する事項を定めています。たとえば、「退職する場合は...少なくとも○日前に、退職願を×を経由して△宛提出すること」等です。退職は労働契約の解除であり、解除を願い出る意思表示が退職願です。口頭でも足りるとされますが、退職申出の事実やその意思が固いこと等を使用者と従業員との双方で確認する趣旨から文書提出を求めています。また、提出によって直ちに退職となるわけではなく、権限者の承認後に退職となるので、承認前であれば撤回が認められることもあります。

これに対して退職届は退職の意思表示を確定して提出するもので、受理された時点で退職となり、撤回は認められません。

一方、辞表は社長や取締役など雇用関係のない立場の人が、その役職を辞めることを届け出る書類です。


 

 



 

Q.従業員との間で定めるべき内容は?また、契約書を交わす必要は?そして、交わす場合どのようなものでしょうか?

この度起業し、私が代表取締役、従業員1名の会社を設立しました。給料は月額を伝えて合意しましたが、その他は特に定めていません。今後、どのようなことを定める必要がありますか?また、その際に何かしらの契約書は必要でしょうか?

 

A.従業員との間で定める内容は労働基準法で定められており、使用者は書面で交付する義務があります 

労働基準法(以下「同法」と言います。)は、労働者の保護を目的として制定された法律で、その目的を履行させるため、使用者が行うべきこと等を具体的に定めています。ほとんどの条文は、「使用者は、...をしなければならない」という定めぶりです。

「最初が肝心」ということわざもあるように、最初に間違うと後の修正は大変です。特に労務管理の場合、悪気はなかったけれども、賃金不払にあたる等、ことが重大になるケースも少なくありません。また、再三お伝えしたとおり、「不利益変更の禁止」原則が適用されるので、最初に使用者側にとって不利な労働条件を交わしていると、その変更は困難です。したがって、従業員を雇い入れるに当たっては、同法の主旨を十分理解し、知らない間に違法を犯したり、又は使用者側に著しく不利な労働条件となったりしないよう、十分留意いただきたいと思います。

 

同法第15条(労働条件の明示)は、次のように定めています。

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間、その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

このように、使用者は従業員に対し、雇入れの際、次の労働条件を盛り込んだ書面を交付しなければなりません。厚生労働省「労働条件通知書」のモデルを活用すれば簡単に作成できます。

(1)賃金に関すること

(2)労働時間に関すること

(3)労働契約の期間

(4)有期労働契約を更新する場合の基準

(5)就業の場所及び従事すべき業務

(6)所定労働時間を超える労働の有無

(7)始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇

(8)賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払いの時期並びに昇給

(9)退職に関すること

 

一方、労働条件通知書に似たものとして、雇用契約書があります。前者は使用者が従業員に交付するものですが、後者は契約書というとおり、記載の契約内容に双方が合意し、記名押印して初めて有効となります。ただし、雇用契約それ自体は口頭又は暗黙の合意でも成立し、契約書を作成する義務はありません。とは言え、想定外のトラブルに備えて、合意した内容を書面にし、双方で保管することには大いに意味があります。記載内容に特段の定めはありませんから、トラブルになりそうな部分のみ記載しても構いません。

ということで、設問への回答は次のとおりとなります。

○ 厚生労働省「労働条件通知書」モデル等を活用して所定の労働条件を記載し、従業員に交付します。

○ 雇用契約書の作成及び交付の義務はありません。

○ ただし、作成したい場合は、労働条件通知書兼雇用契約書として作成し、双方が押印して保管すれば、労働条件通知書の交付と雇用契約書の作成・保管との一挙両得です。




Q.賃金の定め方に守るべきルールはあるのでしょうか?

これまで雇用されていましたが、独立して建設業を立ち上げる予定です。先ずは知人を従業員として雇い入れることにしました。給料はおおむね月額20万円と考えていますが、それだけ決めればいいのか、また、このような定め方でいいのかよく分りません。そもそも賃金の定め方に守るべきルールはあるのでしょうか?


A.賃金の内訳を明確にする必要があります。

設問の事業主は、起業の際に知人を従業員として雇い入れるということで、ハローワーク等へ求人申込はしていません。そして、給料の総額は決めたものの、その他の事項に関する話合いはできていない状況と考えられます。

そこで、ハローワーク等に求人申込をするとき、又はホームページ等で労働者の募集を行なうとき、最低限明示する必要があるのは以下の各項目であり、言い換えるとこれらが労働条件にあたります。

(1)業務内容 (2)契約期間 (3)試用期間 (4)就業場所 (5)就業時間、休憩時間、休日、時間外労働 (6)賃金 (7)加入保険

このうち最も難しいのは、やはり(6)賃金 でしょう。設問の事業主は、賃金を「おおむね月額20万円」とした上で、そうした定めぶりで果たして大丈夫なのか、懸念を感じている状況です。

ところで、賃金の計算方法は、大まかに3つに分類できます。

賃金の計算期間

①月 給

一箇月につき月○○円

②日 給

一日につき○○円

③時 給

一時間につき○○円

最初に決定すべきは、賃金の計算方法を月給、日給又は時給のいずれにするかです。「おおむね月額20万円」と言うのですから、月給を前提として、決定する際の注意点は次のとおりです。

(1)給料額は最低賃金を満たしているか?

そのためには、1日の所定労働時間を決めなければなりません。労働基準法の定める1日の所定労働時間は最高8時間ですから、それをベースにした1と月あたりの労働時間は、次のとおりです。

40時間×(31日÷7日)=177.1時間

そうすると、時間あたり賃金は、

20万円÷177.1時間≒1,129円

となるので、最低賃金を満たしていることが確認できました。

(2)残業した場合の賃金はどうするか?

「おおむね月額20万円」の中には、残業した場合の割増賃金分を含むのか、又はそうではないのかを定めておく必要があります。割増賃金分を含まないのであれば、別途計算してその分を支払えばいいのですが、含むのであれば注意が必要です。

「おおむね月額20万円」の内訳を定め、それを明示しなければなりません。具体的に例示すると、次のような定め方が考えられます。

「...賃金は月額20万円とする。その内訳は、基本給○円及び残業代△円。ただし残業代△円は□時間分相当とし、それを超える残業があった場合は、その差額を支給する。)

事業主の意図としては、賃金の中に残業代を含めていたものの、そのことを明示していなかった、又は従業員に周知していなかった等を理由として、事業主側が敗訴した判例は後を絶ちません。こうしたことから、賃金の決定にあたっては、最低賃金をクリアしていることの確認と併せて、残業代についてもしっかりと考えた上で決定し、そのことを従業員にも十分理解させておくことが大切です。




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