労働基準監督署の立入調査

労働基準監督署は、なにをしているの?

労働基準監督署は、厚生労働省の各都道府県労働局の管内に数か所設置する出先機関です。都道府県労働局は、主に厚生労働省労働基準局の指揮監督の下に、管内の労働基準監督署を指揮監督しています。

労働基準監督署は、労働基準法等に定める監督行政機関として、管轄内の事業場の労働条件及び労働者の保護に関する監督を行います。略して、労基署、または監督署などとも呼ばれています。

 

 

 

労働基準監督(官)署の権限は?

労働基準監督署に所属する労働基準監督官(以下「監督官」と言います)は、労働基準に関する様々な法令を守るよう指導し、違反行為を取り締まるために、事業主や労働者に報告・出頭を命じ、立入調査を行うなどの権限が与えられています(労基法第102条)。法令違反があったとき、違反者を逮捕、送検する権限もあります。刑事事件とは異なり現行犯逮捕はめったになく、所轄の検察庁に告発した上でのことですが、監督官の調査等に従わなかった事業主等が逮捕・送検されたケースは実際にいくつもありますから、慎重、誠実な対応が必要です。

 

労働基準監督(官)署は、何をどのようにして調査するの?

労働基準監督官(署)の調査は、形式的に見ると、監督官が事業場を訪問して行う調査(「臨検」といいます)と、事業主等が労働基準監督署に出向いて行う調査があります。また、これらの調査は、その年度毎に厚生労働省労働基準局または都道府県労働局が重点取締対象と定めた業種や特定の商業施設など(新設のビル等)を対象に、管轄内から無作為に抽出して行う「定期監督」と、事業場の従業員やその家族等からの法令違反がある旨の申告等に基づいて行われる「申告監督」に区分されます。

 

 

調査の内容は、具体的にどのようなものがあるの?

あなたの事業場が労働基準監督署の立入調査の対象となったとき、どのような調査項目があり、また、どのような資料等をあらかじめ用意する必要があるのでしょうか。
残念ながら、調査項目や必要資料等について、全国的に定められたルールはないと言えます。重点的に調査対象とする項目やそのための資料は、社会経済状況や地域ごとの特性等に応じて変化しているからです。
ただし、最も一般的な調査である定期監督の臨検において求められる資料としては、おおむね次のようなものがあります。また、事業主は、労働関係に関する重要な記録を3年間保存する義務がありますから(労基法第109条)、過去に遡って提出を求められることにも注意する必要があります。

資料等の名称 根拠法令
労働者名簿 労基法第107
就業規則 (※常時10以上の労働者がいる事業場) 労基法第89
出勤簿、タイムカード 労基法第109
時間外・休日労働の記録 労基法第109
賃金台帳 労基法第108
時間外・休日労働に関する協定届(36協定届) 労基法第36
1年単位の変形労働時間制を導入している場合は、労使協定および協定届の控え
(※導入していない場合は不要)
労基法第32条の4
賃金控除に関する協定書 労基法第24
年次有給休暇を付与していることを証する記録 労基法第39
10 定期健康診断結果個人票 安衛法第66条の3

 

 

調査の流れは?また、監督官の言うことには、すべて従わなくてはならないの?

 

さて、実際の調査はどのように実施され、また、監督官から様々な指示等があったとき、事業主等はそれらのすべてに従わなければならないのでしょうか。

 

結論を言うと、もちろんそんなことはありません。

 

臨検の際、監督官から先ずは口頭で様々な指示等が行われますが、後日に交付される是正勧告書や指導票に記載された内容が、具体的な是正、指導ということになります。おおざっぱに言って、法令等により義務付けがあるものの違反が「是正」の対象、法令違反にはあたらないものの改善が望ましいとか、または単なる要請、お願いが「指導」の対象です。

 

とくに口頭の場合、監督官によっては、それが「是正」なのか「指導」なのかあいまいな場合があります。一つの例として、事業場に立ち入った監督官が、いきなり「最低賃金法のポスターを貼ってない…罰金ものだ!」と言ったとします。そこで、最低賃金法を見ると、「…厚生労働省令で定めるところにより、当該最低賃金の概要を、常時作業場の見やすい場所に掲示し、又はその他の方法で、労働者に周知…」(第8条)とし、違反(地域別最低賃金等に係るものに限る)は30万円以下の罰金の対象(第41条第1項)としています。また、厚生労働省令は、周知すべき内容を具体的に定めています。

 

つまり、その他の方法で周知(従業員へのメールに労働局の該当ページへのリンクを貼る、給与明細書の欄外にプリントする…etc.)していれば、または労働局の該当ページのプリントアウトを掲示していれば、「ポスターを貼って」いなくても、一向に構いません。

 

とはいえ、労働基準法で定める労働条件は最低のもので、事業主は労働条件の向上に努める義務があります。したがって、法令違反はもとより論外ですが、指導に過ぎないとしても、労働条件の向上に向けて、可能なものについては誠実に対処すべきでしょう。

 

 

 

調査の流れ