年次有給休暇請求権(最高裁判決)

50年以上正しいものとされてきた行政解釈をくつがえす判決が最高裁判所でありました。

今後、制度運用の一部修正が必要です。

八千代交通年次有給休暇請求権訴訟

埼玉県のタクシー会社(八千代交通)の労働者が、平成19年5月に普通解雇されたことの不当性を争ったことが発端です。

解雇について、平成21年7月のさいたま地裁判決、同年8月17日の東京高裁判決は、いずれも「解雇無効」としました。

労働者はその後職場復帰し、解雇期間中も含めて年次有給休暇を請求しました。しかし、会社は請求を認めず、労働者が年次有給休暇とした日を欠勤として処理しました。

不就労分の賃金カットと年次有給休暇がないことを通知された労働者が年次有給休暇の請求権について争ったのが、今回の裁判です。

何が争点となったのか?

年次有給休暇を付与する要件は、法律に定められていますが(労働基準法第39条)、その一つとして「働くべき日の8割を出勤していること」があります。

それでは、不当解雇により労働者が働くことのできなかった期間は、「働くべき日」に含まれるのでしょうか?ここが裁判の主な争点となりました。

会社側の主張は、「働くべき日に含まれない」。一方、労働者側の主張は、「働くべき日に含まれ、かつ、労働した日として数える」というものでした。

さて、労働基準法を所管する厚生労働者(旧労働者)の見解(行政解釈)は、昭和33年以来、「使用者の責任により休業させた日は、働くべき日並びに出勤した日に含まれない」と捉えるのが正しいというもので、会社側の主張どおりです。

したがって本件の場合、不当解雇期間中の2年間は、働くべき日にあたらず出勤した日は0になるので、会社に有給休暇を付与する義務はないことになります。

無効な解雇期間は「全労働日」である

本年6月6日の最高裁判決(最高裁第一小法廷、金築誠志裁判長)は、「無効な解雇期間は、出勤率の算定にあたっては出勤日数に算入すべきもので、

『全労働日(働くべき日並びに出勤した日)に含まれるもの』にあたる」と判示しました。

不当解雇期間中の2年間は働いた日とカウントされ、労働者の年次有給休暇請求権が認められました。50年以上にわたり運用されてきた行政解釈が、修正を求められることとなったのです。

判決のポイント

今回の判決のポイントは、「使用者の責任により休業させた日」を次の2つの観点から区分したうえ、それぞれ異なる取扱いを求めたことと言えるでしょう。

1、不可抗力や使用者の経営・管理上の障害による休業

(客観的不就労日)

2、不当解雇のように正当な理由もなく使用者が就労を拒否

(主観的就労日)

1、の場合は、今までどおり働くべき日及び出勤した日から除外し、

2、の場合は、含める

ことになります。

 

参考条文

年次有給休暇(労働基準法第39条) 使用者は、その雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務した全労働日の8割以上出勤した労働者に対して継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。(以下略)