退職予定者の年次有給休暇

Q.退職予定者の年次有給休暇の請求を断ることはできますか?

9月末日で退職を予定している従業員が、9月1日から退職日までの期間に残りの有給休暇分を全部使いたい、と申出ました。当社は、その間に後任を決めて業務の引継をしたいと思っていましたので、休まれては業務に支障が生じます。

この場合、従業員の請求を断ることはできますか?

従業員には年次有給休暇の「時季指定権」があります

従業員(労働者)は、「○月○日に年次有給休暇をとります」として、取得日を指定する権利があり、使用者の承認は必要ありません。これを、従業員(労働者)の年次有給休暇の「時季指定権(法令上は『時期』ではありません)」といいます。

有給休暇の利用目的は自由で、就業規則等で兼業禁止の規定がない場合は、他社でアルバイトをすることも可能です。

一方、従業員(労働者)の「時季指定権」に対し、使用者側は年次有給休暇の「時季変更権」を有しています。

使用者の「時季変更権」とは?

従業員(労働者)から時季指定された日が、事業の正常な運営を妨げる場合、使用者が休暇の日にちを変更できる権利をいいます。

ただし、何をもって「事業の正常な運営を妨げる場合」にあたるとするかは、狭く解釈すべきとされています。使用者の主観的な判断ではなく、会社の規模や、職場の配置、業務内容、代行者の配置の難易度等の事情を総合的に勘案して判断する必要があり、単に「仕事が忙しい」という理由では「時季変更権」は行使できません。

こうしたことから、質問のように退職を控えた従業員が残りの年次有給休暇をまとめて請求した場合、それが「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するとしても、もはや退職日までの間に時季を変更する余地がないので、使用者は『時季変更権』を行使できないことになります。

どのような対応策が考えられますか?

業務の引継等、どうしても働いてもらう必要がある場合は、

①従業員と話し合い、退職日を変更してもらう

②請求を取り下げてもらう代わりに、退職時に未消化の有給休暇の日数に応じて手当を支払う

などの対応策が考えられます。

年休の買上げを予め約し、その分の日数について年収取得を認めないことは、年休の保障(労働基準法第39条)に反するものとして、違法にあたるとされています。

ただし、退職時に未消化の有給休暇や法定日数を超えて与えている年次有給休暇日数部分を買上げることは、違法にはあたらないものとされているので、②の方法が可能になるわけです。

とはいえ、こうした事態にならないためにも、使用者は日頃から年次有給暇日の計画的取得を促すこと等が大切です。