労働安全法の一部改正

メンタルヘルスの不調と自殺との関わり

警察庁によれば、平成25年におけるわが国の自殺者数は2万7,195人で、4年連続減少しました。しかし、平成10年から23年まで3万人を超える高水準が続くとともに、自殺者「数」(「率」ではありません)は米国の2倍、英国の3倍に上るなど、依然危機的な状況です。

日本人の主要な死因を見ると、「自殺」は、全世代では6番目、15歳から39歳の各年代ではなんとトップです。

自殺に至る経過は様々ですが、特に直前の要因に着目すると、うつ病など精神疾患との関わりが指摘されています。

 

「労働安全衛生法の一部を改正する法律」のポイントは?

こうした中で、厚生労働省は「自殺・うつ病等対策PT」を設け、職場におけるメンタルヘルス不調者の把握や把握後の対応のあり方等を検討し、「労働安全衛生法の一部を改正する法律案」として取りまとめました。同法案は、平成23年国会に提出され、いったんは審議未了・廃案となりましたが、その後再提出され本年6月に成立しました。改正のポイントを取りまとめると、次のとおりです。

(1)労働者50人以上の事業場に対し、年1回、医師又は保健師による労働者の精神的健康の状況を把握するための検査を行うことを義務付け(ストレスチェック義務化)

(2)検査結果は、医師等から、労働者に通知。医師等は、労働者の同意を得ないで検査結果を事業場に提供してはならない。

(3)事業場に対し、検査結果を踏まえ労働者が面接指導の申出をしたとき、医師による面接指導の実施を義務付け

(4)面接指導の申出を理由とする不利益取扱の禁止。また、事業場に対し、面接指導における医師の意見等を踏まえ必要な場合、作業転換、労働時間の短縮等、適切な就業上の措置を講じることを義務付け

 

どのくらいの影響、又は効果があるのでしょうか?

改正労働安全衛生法の施行時期は未定ですが、遅くとも平成27年度末までと言われます。また、検査項目等は、今後、厚労省令や指針等で定められます。繰返しになりますが、義務付けは「労働者50人以上の事業場」ですから、大半の中小企業は免除対象です。

さて、この法改正は以前に廃案になった経緯から、いくつかの企業では、こうした取組が既に先行的に導入されています。導入済の企業における運用実態は、おおむね次のとおりです。

(1)通常の定期健康診断の受診機関にはノウハウがないことが多いので、メンタルケアの専門会社など他の受診機関に委託し、定期健診とは別の時期に実施している。

(2)検査は、委託会社から従業員個人名宛の封書で調査票を配付して実施している。今後は、社内LANを活用したメールによる検査等も検討している。

(3)検査項目は、基本的に厚労省の暫定モデルをベースに、択一形式(複数の肢から一又は複数選択、又は○×方式)で回答。

(4)回答率は100%近い。ただし、検査後、職員から面接指導の申出等があった事例は少ない。

また、導入の効果としては、厳しい評価が多数のようです。

ア.コストの割に、効果が乏しい。メンタル不調職員は、従前から管理監督者が把握済で、その多くは厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準」に鑑みれば労災対象とは言えない。

イ.個人情報とはいえ、本人申出がない限り、管理監督者は不調を把握できないシステムが最大の問題。ただし、事業場側として、トラブル発生時、「申出がなかった」と主張できるメリットはある。2014