有給休暇取得と精勤手当の不支給について

Q.年次有給休暇を取得した場合、精勤手当を支給していません。  労働基準法違反にあたるのでしょうか?

当社は、当該月の所定労働時間全てに出勤した社員に対し精勤手当を支給しています。一方、当該月に欠勤や年次有給休暇を取得した場合、精勤手当は支給していません。

ところが、中途採用した社員から、有給休暇を取得した場合に精勤手当を支給しないのは労働基準法違反ではないか、との指摘がありました。今まで特に問題なく運用してきましたが、本当に法令違反なのでしょうか?

 

A.ただちに違法とは言えませんが、避けるべきと考えられます

年次有給休暇について、労働基準法第39条第1項は次のように定めています。

「使用者は、その雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。」

さらに、同法の附則第136条は、「使用者は(中略)有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他の不利益な取扱をしないようにしなければならない。」と規定しています。

社員の指摘は、このことを踏まえた上でのものと考えられます。

さて、有給休暇の取得を理由として精勤手当を支給されなかった社員がその支払いを求めた最高裁判例(沼津交通事件、平成5.6.25判決)があります。

(1)事実の概要

① 従業員は、43か月間に42日の有給休暇を取得した。

② 会社の就業規則は、「精勤手当は、欠勤の場合には、1日休むと半額、2日以上休むと不支給とする。そして、この「欠勤」には有給休暇も含まれる。」と定めていた。

③ そこで、会社は精勤手当を減額または不支給とした。

④ 従業員は、その行為が労働基準法第39条及び同法附則第136条(前出)に違反し無効であるとして、減額・不支給分の支払を求めた。

(2)判決の要旨

① 附則第136条の規定は使用者の努力義務であり、私法上効果を否定するまでの効力を有しないものである。

② 精勤手当の額が多額でないことから、減額が年次有給休暇取得の権利の行使を抑制し、ひいては労働者の権利を保障した趣旨を実質的に失わせるのものとまでは認められない。

③ こうしたことから、会社の対応は公序良俗に反する無効なものとまでは言えない

このように、判例は結論として労働者の請求を斥けるものでした。

一方、裁判官は判決の中で、有給休暇を取得したことによる精勤手当の減額措置は望ましいのではないことに言及しています。また、仮に精勤手当の額が高額であり、それを不支給とした場合、労働者の権利である有給休暇取得を抑制することにつながり、公序良俗に反すると判断される可能性があることも示唆しています。

 設問の会社の精勤手当の額は分かりません。しかし、少額であれはなおさら不支給とすることは避けるべきと考えられます。

仮に裁判に至り、最終的には勝訴したとしても、それまでの経済的、精神的負担を考えれば、企業側の損失は明らかです。

こうしたことから、無用の争いは回避することが経営上の観点からも得策と考える次第です。