36協定を締結する場合の留意点

Q.会社が従業員代表者を指名した場合、労使協定は有効ですか?

当社は、従業員5名の会社です。労働組合がないので、時間外及び休日労働における労使協定(36協定)は、従業員の過半数を代表する者との間で締結しています。また、過半数代表者は、設立当初から社長の指名を受けることとしています。

ところが、先日、締結者が適切ではないとして、協定が無効になる場合があると聞きました。当社は大丈夫ですか?

 

A.使用者が一方的に指名した人は、本来、労働者代表になれません。仮に争いが生じた場合、その人と締結した労使協定は、無効とされることがあります。

労働基準法(以下「同法」と言います)は、労働者の保護を目的に、使用者に対し強制的に履行を義務づける強制法規です。この点、契約自由を原則とする民法との大きな相違があり、同法と民法とが競合する場合、原則として、同法の規定を優先することとなります。

また、使用者が同法に違反したときは、罰則により処分されます。ただし、一定の事項については事業場の労使協議に委ね、強制法規たる性格を解除できます。事業者と労働者との間の取決めを労使協定といい、労使協定を締結することによって、本来は違法な行為も適法となり、したがって罰則の対象外となります(違法性の阻却)。

労使協定は、法令上の規範からの除外的取扱い(「免罰効果」と言います)を認める極めて重要な行為です。こうしたことから、締結者が妥当でないと、その協定自体が無効となる可能性があります。

 

36協定の締結者として妥当でない者とは?

同法第6条の2及び厚生労働省通達において、次の人等は労使協定における「労働者の過半数代表」としては認められません。

(1)労働基準法第41条2号に該当する管理監督者

(2)使用者が一方的に指名した人

(3)親睦会の代表者が自動的に代表者となっている場合

さて、設問のケースでは、締結者は上記(2)に該当するようにも見受けられます。したがって、その者との間で締結した36協定は無効とされる可能性があります。

 

締結者が妥当でなかったことを理由として、36協定、解雇とも無効とされた判例があります。

トーコロ事件(最高裁平成13年6月)

(1)事実概要

① 被上告人は、平成3年7月勤務会社(以下「同社」と言う)に入社後、電算写植機のオペレーターとして住所録の作成業務に従事した。毎年11月から翌年3月までは卒業記念アルバム制作等の繁忙期で、毎日30分ないし1時間45分程度残業していた。

② この間、被上告人は、同社が繁忙期に年次有給休暇の取得を制限することを批判した。また、納期を理由とする長時間残業命令を拒否し、そうした意見を全従業員に送付した。加えて、「眼精疲労の治療通院」を理由として、時間外労働命令を拒否した。

③ こうしたことの末、被上告人は、平成4年2月、社長からの退職勧奨を拒否し、「協調性の欠如」を理由に解雇通告を受けた。

④ 同社の36協定は、従業員の親睦団体の会長である者が労働者の過半数代表として締結したものであった。

(2)判決の趣旨

社長をはじめ全社員が加入している親睦会の代表が労働者代表の過半数代表として締結した36協定は無効、これに基づく時間外労働命令も無効。したがって、時間外労働命令を拒否したことに対して行われた本件解雇通知は無効である。