就業規則における兼業禁止の効力

Q.インターネット上の商取引で利益を得ていた従業員を、兼業禁止規定違反にあたるとして、解雇処分できますか?

当社は就業規則において、「社員は、会社の許可なく他の営利を目的とする業務に従事し、また自己の営業をしてはならない」とする兼業禁止規定を定めています。ところが、先日、社員の一人がインターネット上のオークションで自分のコレクションを販売し、相当な利益を上げていることが発覚しました。ネット販売等は勤務時間外に自宅のパソコンで行っており、一方、勤務態度や業績評価等に特段の問題はありません。周囲への影響等を勘案し、厳格な処分が必要と思われることから、就業規則に則り、懲戒解雇処分としたいのですが、何か問題はありますか?

 

A.早急な解雇は、権利濫用にあたる可能性があり、慎重な対応が求められます

多くの企業は、社員が職務に専念し、企業への忠誠心を保持させるため、就業規則等において「兼業禁止規定」を定めています。就業規則の規定は、それが合理的なものである限り、個別の労働契約の内容にあたります。労働者はこれを遵守する必要があり、違反したときは、懲戒処分等の対象となり得ます。

しかし、他方において、当該兼業が企業の勤務時間外に行われるのであれば、それは労働者が本来自由な私生活を利用しているに過ぎず、本来対等である企業と労働者の間において、企業が労働者の私生活に介入するような兼業禁止をなぜなし得るのか、という疑問が残ります。

こうした疑問について、判例は、勤務時間の内と外(私生活)とを分け、勤務時間外の私生活の領域については、企業が一方的に支配し得るものでなく、事業活動を円滑に遂行するに必要な限りにおいて規律や秩序を設定できるとしています。仮に、「事情のいかんを問わず、絶対的に兼業を禁止する」ような就業規則があれば、それは合理性を欠くものとして無効であり、兼業禁止規定は限定的に解釈すべきというものです。このことから、「禁止される兼業」とは、

(1)それを行うことにより、「本業」に服するために必要な休養を取れなくなり、業務に支障をきたす場合

(2)それを行うことにより、労働者の誠実な労務提供が困難となり、さらには企業内・職場内秩序が乱される場合

等がそれにあたると考えられます。言い換えれば、企業の職場秩序に影響せず、かつ、企業に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の兼業は、規定違反にあたらないとする立場です。

さて、設問のケースについて考えると、当該社員は、

(1)勤務時間外の私生活の時間に、自分の資産を利用して行なっている

(2)「勤務態度や業績評価等に特段の問題は」ないのであるから、労務提供に格別の支障を生じているとは言えない

等から、「禁止される兼業」にはあたらないと考えられます。

したがって、仮に、直ちに懲戒解雇処分に付し、そのことが訴訟等に至ったときは、解雇権の濫用にあたるとして無効とされる可能性が高いのではないでしょうか。

それでは、企業側が取り得る対応としては、どのようなものがあるでしょう。「周囲への影響等を勘案し」と述べているように、他の社員たちが同じような行動に走り、その結果、業務に支障が生じたり、企業内・職場内秩序が乱れるに至ったりする懸念は考えられます。そうした状況が生じたとき、企業は当該社員に対し、本件行為が業務への支障や職場秩序への悪影響をもたらしていることを説明して、兼業をセーブするか又はやめるよう注意することができます。それにも関わらず、業務支障や秩序びん乱が改まらなければ、懲戒処分に付したとしても、それはきちんとしたプロセスを踏んだ合理的な措置と考えられます。