労働災害と認定される精神障害

Q.精神障害が労働災害と認定されるのは、どのような場合でしょうか?

係長に昇任させた社員が、最近、抑うつ症状があるとのことで欠勤しています。真面目で頑張り屋ですが、その性格が災いしてか、精神的に追い詰められやすいようです。抑うつ症状などの精神障害が労働災害(以下「労災」といいます。) に認定された場合、本人や家族から損害賠償を要求される可能性があると聞きました。どのような場合に認定されるのでしょうか?

 

A.厚生労働省が「認定基準」を定めています

厚生労働省の調査によると、労災は長期的に減少傾向にあるものの、精神障害による労災請求件数は増加の一途をたどっています。平成25年度には過去最高の1,409件の請求があり、その内の4割弱が労災と認定されました。精神障害を理由とする労災請求件数が最も多い業種は、「製造業」、次いで「医療・福祉」、「卸・小売業」と続きます。また、請求者の年齢層は、「30歳~49歳」が全体の6割を占めています。社会的責任が重くなる、いわゆる働き盛りの年齢層に精神障害を患う労働者が多いことがうかがえます。

さて、労災認定の要件として、「被ったけがや病気と業務との間に、因果関係があること」があります。肉体的なけがと異なり、精神障害はその立証が困難なケースが少なくありません。厚生労働省は、平成23年に精神障害を労災認定するにあたっての判断基準を取りまとめ、「精神障害の労災認定」を公表しました。その中では、精神障害を労災と認定する要件として、次の3つを掲げています。

(1)認定基準の対象となる精神障害を発病していること

(2)認定基準の対象となる精神疾患の発病前おおむね6ヶ月の間に業務による強い精神的負荷が認められること

(3)業務以外の精神的負荷や個体的要因により発病したとは認められないこと

そのうち(1)の「認定対象となる精神障害」としては、設問の「抑うつ症状」など、代表的な精神障害が示されています。

また、(2)の「強い精神的負荷」とは次のいずれかの場合です。

① 業務に関連し、重度の病気やけが

② 業務に関連し、重大な人身事故、重大事故

③ 会社の経営に影響する等の重大な仕事上のミス

④ 退職を強要された。

⑤ ひどい嫌がらせ、いじめ又は暴行を受けた。

⑥ 発病直前に極めて長い時間外労働(月120時間~160時間)

⑦ 発病前の1か月から3か月の間、連続して長時間の時間外労働(月100時間~120時間)

⑧ 恒常的な長時間の時間外労働(月100時間)

一方、(3)においては、「業務外以外の精神的負荷」、例えば「離婚又は夫婦別居」、「配偶者や親族等の死亡又は重病等」、「天災や火災、又は犯罪被害等」など、会社の業務とは関連しないところで見舞われた重大なストレスに起因して発病したとは言えず、また、精神障害の既往歴やアルコール依存など「個体的要件」が原因とは認められない場合、労災と認定され得ることが示されています。

 

時間外労働の状況など発病前の仕事ぶりや、家庭環境、個体的要因を確認しましょう

さて、設問の社員について、会社側としては、先ずは時間外労働の状況をはじめ発病前の仕事ぶりを調査することが必要です。仮に、基準に示されたような長時間の時間外労働やいわゆるハラスメント等の実態がなかった場合、労災と認定される可能性は低いと考えられます。また、仮にあったとしても、精神障害は、家庭環境の状況や個体的要因に起因する場合も少なくありません。プライバシーに配慮しつつ、精神障害に陥った原因と思われるものは何か、また、そのことについて誰が責任を負うべきか、丁寧かつ客観的に確認し検証することが大切と考えられます。