使用者に作成保存義務のある書類等

労働基準法で使用者に作成等が義務づけられている書類があると聞きました。どのようなものですか?

この度、新しく事業を起こすこととなりました。法務局、税務署、ハローワーク、年金事務所及び労働基準監督署等の各種関係機関で開業手続を進めています。ところで、労働基準法において、使用者が労働者を雇い入れるとき、必ず準備しなければならない書類が定められていると聞きました。どのような書類ですか?

労働者名簿、賃金台帳、出勤簿等の作成・保存が義務付けられています

民法は私人間の法律関係を定める一般法であり、使用者と労働者との間には、民法第623条に基づいて労働契約が成立しています。民法上、当事者間の合意さえあれば、原則としてどのような契約内容でもかまいません。一方、当事者間といっても、雇う側と雇われる側とでは、自ずと力関係が異なります。その結果、雇われる側にとって著しく不利な条件で労働契約が成り立つことも考えられます。劣悪な契約を防止することで労働者を保護する観点から、労働基準法は使用者が守るべき最低条件を定めています。このように、労働契約は一般法である民法に基づくとともに、特別法である労働基準法の制約の下にあります。また、法律のうちで当事者間の合意が優先される規定を任意規定、当事者間の意思にかかわらず適用される規定を強行規定又は強行法規と呼ぶことがあります。

さて、労働基準法は第107条、第108条及び第109条において使用者が作成すべき帳簿類やそれらの保存について定めています。

第107条は、労働者名簿に関する規定です。使用者は、各事業場ごとに労働者名簿を調製し、変更があった場合、遅滞なく訂正しなければなりません。記載すべき事項は次のとおりです。

①性別 ②住所 ③従事する業務の種類(常時30人未満の労働者を使用する事業については不要) ④雇い入れの年月日 ⑤退職の年月日及その事由 ⑥死亡の年月日及びその原因

次に、第108条は、賃金台帳に関する規定です。使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項や賃金の額等を、賃金支払の都度、遅滞なく記入しなければなりません。記載すべき事項は次のとおりです。

①氏名 ②性別 ③賃金計算期間 ④労働日数 ⑤労働時間数

⑥時間外労働、休日労働及び深夜労働の時間数

⑦基本給、手当その他賃金の種類ごとにその額

⑧賃金の一部を控除した場合には、その額

第109条は、保存について定めています。使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金、その他労働関係に関する重要な書類の保存を義務づけられています。また、その他重要な書類としては、出勤簿やタイムカード等の記録、労使協定の協議書等があります。保存期間は、令和2年の法改正によって3年から5年に延長されましたが、経過措置により当分の間は3年です。

コンピュータ等の電子機器で保存する場合の注意点は

現在は、労働者名簿や賃金台帳等を、コンピュータ等の電子機器で管理する事業場が多くなっています。電子機器等で管理すること自体は問題ありませんが、「労働基準法コンメンタール」によれば、

・画像情報の安全性が確保されていること

・画像処理を正確に記録し、かつ長期間にわたって復元できること

・労働基準監督官の臨検時など保存文書の閲覧、提出等が必要とされる場合、直ちに必要事項が明らかにされ、かつ、写しを提出できるシステムになっていること

が必要とされています。

労働者名簿、賃金台帳、出勤簿等は法定3帳簿とも言われ、臨検時には必ず提出を求められます。必ず調製し、日頃きちんと整備しておくことが大切です。