副業・兼業を行う労働者の労働社会保険について
Q.副業・兼業をしている従業員がいます。労働保険や社会保険の取扱はどうなりますか?
小売業を営む者です。労働者40人を雇用し、全員被保険者です。この度、週当たり労働20時間のパートタイマーを新たに雇い入れました。聞いたところ、他社でも週20時間勤務しており、雇用保険や社会保険は既にその会社で加入しているとのことです。この場合、弊社での取扱は、どのようにすればいいですか?
A.社会保険は加入基準を満たさないため不要です。雇用保険は給与の高い企業で加入します。
副業・兼業(以下、「兼業等」と言います。)を希望する労働者は、年々増加しています。主な理由として、収入を増やしたい、一つの仕事だけでは生活できない、等の経済的事情があります。一方、自分が活躍できる場を広げたい、現在の仕事で必要な能力の活用や向上につなげたい、といったキャリア形成や自己啓発を目的とする者も、一定割合存在します。
日本経団連は、会員企業275社に対して調査を実施し、回答率は18.2%でした。それを見ると、2022年時点で、兼業等を「認めている(53.1%)」又は「認める予定(17.5%)」であり、兼業等を認める企業は、特に2019年以降、急増しています。背景として、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(2018年公表。2020・2022年改定)や「モデル就業規則」の公表、コロナ禍でテレワークが普及し兼業等の環境が整ったこと、等が考えられます。
さて、設問のパートタイマーを参考に、兼業を行う労働者の労働保険や社会保険の取扱を確認します。先ずは社会保険からです。設問の労働者は、他社で既に社会保険に加入しています。ご承知のこと と思いますが、社会保険の短時間労働者への適用拡大に伴い、令和4年10月1日以降、被保険者数101人以上(令和6年10月1日以降、被保険者数51人以上)の企業は、
(1)週の所定労働時間が20時間以上
(2)雇用期間が1年以上見込まれる。
(3)賃金の月額が88,000円以上
のいずれの要件も満たす労働者は、社会保険に加入させなければなりません。設問のパートタイマーは、他社で既に加入しているというのですから、他社との労働契約上、上記の要件を満たしていると考えられます。一方、設問の企業は被保険者数40人なので、現時点で、及び令和6年10月1日以降も、基準を満たしません。したがって、このパートタイマーを社会保険に加入させる必要はありません。ところで、適用の是非を判断する基準は「被保険者数」で、「労働者数」ではありません。被保険者数とは、現在、社会保険に加入している労働者数をいい、未加入の者は含まれません。仮に、適用の更なる拡大によって、設問の企業も社会保険に加入させなければならなくなった場合、このパートタイマーは、2社で社会保険に加入することとなります。ただし、保険証は1社のみで発行するため、パートタイマーは本人の自由な意思に基づいて、保険証を発行する企業を選択します。選択された企業は、「二以上事業所勤務届」を保険者に届け出ます。その際に報告する給与額は、2社の合計額です。保険料は、給与額で按分した額を、それぞれの企業が負担します。
次に、労働保険の雇用保険です。雇用保険は、給与のより高い企業が被保険者です。パートタイマーの他社における給与を確認し、他社の方が高ければ雇用保険は不要です。一方、設問の企業の方が高ければ、雇用保険被保険者資格取得の手続を行い、他社は資格喪失手続を行います。
最後に、労働保険の労災保険です。労災保険はそれぞれの企業で加入し、保険料は事業主が全額負担します。労働者が業務に起因する傷病により休業を余儀なくされた場合、労災保険制度から休業補償給付金が支給されます。休業補償給付金は休業4日目から、原則、一日当たり給付基礎日額の8割(特別給付金2割を含む)です。給付基礎日額は、直近3か月の給与額を基に算定しますが、その時の給与額は2社の給与額を合算した額です。仮に、設問のパートタイマーがいずれかの企業で労災に遭い、そのために2社とも休業した場合、労災申請は2社がそれぞれ行います。ただし、労災を起こしていない方の企業は、労災責任を問われることはありませんし、また、労災による休業者の解雇制限を受けることもありません。