年収の壁とは

Q.従業員に採用予定の方から「年収106万円以内で働きたい」との申出がありました。昨今耳にする「年収の壁」とはこのことかと思った次第ですが、具体的な内容を教えてください。

弊社の従業員は10人で、この度初めてパート従業員を雇い入れます。ところが、採用にあたり「配偶者の扶養から外れないよう、年収106万円以内で働きたい。」との申出がありました。弊社が希望する就業条件は週25時間労働で、その場合、年収は約120万円です。昨今耳にする「年収の壁」とはこのことか、と思った次第ですが、その具体的な内容はどういうことなのか、教えてください。

A.「年収の壁」は、税金や様々な保険料等が初めて発生する年収額(所得額)を示しています。具体的には、100万円、103万円、150万円、106万円、130万円などがあります。

働いてその結果、収入が一定額を超えると所得(収入から必要経費等を差し引いた額)に応じて税金や様々な保険料等が賦課されます。「年収の壁」は、それらの負担が初めて発生する年収の額を示しています。以下、金額別に「年収の壁」の具体的内容を説明します。

(1)100万円の壁

100万円の壁は、住民税に関するものです。年収が100万1円以上になると住民税が発生します。例えば千葉市、令和6年、扶養家族なし、給与所得のみで100万1円の場合、住民税は年に約6千円です。ただし、住民税は、市区町村毎に課税対象額を定めています。100万円以下でも発生する場合もあり、確認が必要です。

(2)103万円、150万円の壁

これらは、所得税に関するものです。年収が103万円を超えると、所得税が発生します。所得を得た者が親等に扶養されている学生等であれば、税法上の扶養から外れ、その結果、親等扶養者の所得税及び住民税が増えることとなります。

それに対して、所得を得た者がパートタイマーの主婦等であれば、配偶者特別控除制度が適用され、扶養者である配偶者への影響はほとんど生じません。

一方、パート主婦等の年収が150万円を超えると、配偶者の所得税及び住民税に影響が生じ、これが「150万円の壁」と呼ばれる所以です。配偶者の年収にもよりますが、パート主婦等の年収が150万円を超えると、配偶者特別控除の額は次第に減少し、201万円になると控除がなくなります。なお、所得税率は5%と、住民税率10%より低く設定されています。報道等でご存じのとおり、この所得税が発生する年収額の見直しが、現在、国会で争点となっています。

(3)106万円、130万円の壁

これらは、社会保険料に関するものです。会社員や公務員等の配偶者(20歳以上60歳以下に限ります。)が、パート労働等により一定額を超える年収を得た場合、社会保険制度上、配偶者の扶養から外れて自ら社会保険(健康保険及び厚生年金保険)に加入する必要があります。したがって、単身者や自営業者及びその配偶者に、これらの壁はありません。社会保険料率は約15%、負担額は年収額106万1円で年に約15万9千円、年収額130万1円で年に約19万5千円となります。

ところで、社会保険への加入が必要となるのは、従業員数51名以上の企業の場合年収106万円超、50人以下の場合130万円超です。つまり、会社の規模により「年収の壁」は異なっています。そこで設問の会社を見ると、「従業員数10名」なので「年収の壁」は130万円。会社の希望する就業条件で働いた年収約120万円は、採用予定者が懸念する壁に抵触しません。その旨を説明すれば、納得して契約に至るものと考えられます。

配偶者に扶養されていた主婦等が自ら社会保険に加入するメリットとして、将来受給できる年金が多少増えること、健康保険の傷病手当金を受けられること等があります。しかし、保険料の負担は、住民税や所得税より金額が大きいことから、相変わらず扶養の範囲内で働きたいとの希望は根強いものと思われます。