労使協定の法的効力とは?

労使協定の法的効力とは?

先ずは、労使協定制度の趣旨は何であるかを確認しましょう。

(1)私人間の契約関係には、本来、当事者の自由な意思と双方の合意に基づいて決定する「契約自由の原則」が適用される。

(2)しかし、この原則のみでは、労働者の権利保護が果たされないなど、公益的な観点からの問題が生じる懸念がある。

(3)そこで、労働基準法等の労働関係法令は、契約自由の原則の例外として、国家行政の立場から使用者に一定の行為を禁じた上で、必要な場合は、労使協定すなわち労働者の団体意思の同意を条件として、例外的な取扱を許容している。

したがって、労使協定の法的効力は、「法令上、本来は禁じられている事項を合法的に行うことを可能にする」ところにあるといえます。これを「刑罰免除的効力」、又は単に「免罰効果」等といいます。

具体的な例を挙げると、法定労働時間(週40時間、1日8時間。労働基準法第32条)や法定休日(原則1週1回。同法第35条)を超えて労働させれば、法令違反として刑事罰(6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金)の対象となり得ます。しかし、適法な労使協定を締結し、かつ、労働基準監督署長に届け出た上でのことであれば、法令違反にはあたらず、したがって罰則の適用もありません。

ただし、こうした効力は、あくまでも労使協定の範囲内に限られます。当該協定で定める限度を超えて労働させ、又は当該協定で定める手続等の要件に反して時間外労働や休日労働をさせれば、労働基準法違反にあたります。

労使協定のみで時間外・休日労働を課することはできません。

ここで注意すべきは、労使協定の効力はもっぱら国家行政、具体的には労働基準監督署長等の所管行政庁に対してのみ生じることです。労使協定を締結したからと言って、それのみを根拠として労働者に時間外・休日労働を課することはできません。

労働契約が私人間の契約である以上、雇用契約書や就業規則、労働協約等において、使用者は必要な場合、時間外・休日労働を命じることができ、労働者はその命令に従わなければならない旨が定められていなければ、労働者には時間外・休日労働すべき民事上の義務は生じません。

労使協定を結ぶべき相手は誰でしょう?

労使協定の一方の当事者が使用者であることは明らかです。

それでは、他方たる「労働者の団体意思」とは、具体的には誰のことでしょうか?

労働基準法第36条を見ると、「事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、ない場合においては事業場の労働者の過半数を代表する者」とあります。

しかし、労働組合の組織率は2割を割り込んだとされる今日、中小企業であればなおさら設問のように労働組合そのものがない事業場が多数を占めるのが実状と思われます。

そこで、次号では、

・労働組合はあるが、過半数にいたらないときは?

・労働組合はないが、親睦会はあるときは?

・労働組合がないとき、又は過半数にいたらないとき、労働者の過半数を代表する者として認められる者とは?

・過半数というとき、パートタイマーや派遣労働者等の取扱は?

等について整理します。