履歴書を返還することの必要性
Q.不採用とした人から履歴書の返却を求められました。 応じる必要がありますか?
当社は、新規採用者を募集しています。先日、不採用とした人から、履歴書を返却してほしいとの申し出がありました。このような請求を受けたのは、初めてです。手間や費用も掛かるので断りたいのですが、法的に問題はありますか?
A.法的な取り決めはありませんが、返却が望ましいと考えられます。
企業等が人を雇い入れる際の参考資料として、応募者に対し履歴書の提出を求めることは、慣行として定着しています。
労働基準法第109条は「使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければならない。」と定めています。ただし、ここで言う「雇入れに関する書類」とは、雇入れ通知書や労働条件通知書などの書類です。履歴書のような採用のための選考書類は含まれないと解されています。つまり、履歴書については、法的な保存義務はありません。また、履歴書の返却や廃棄等に関しても、法的な取り決めはありません。したがって、事前に応募者に対し不採用となった時の履歴書の取扱について明示しておけば、このような事態を回避できます。具体的には、応募時に「不採用とした場合、履歴書の返却はしない」旨を明示しておきます。
一方、こうした明示をしていなかった等の場合、どのような問題が生じるでしょう?
履歴書には、応募者の氏名や住所、生年月日、職歴等、さまざまな個人情報が記載されています。したがって、個人情報保護の観点から、取扱いには十分注意しなければなりません。
個人情報保護法第18条は、次のとおり定めています。
(1)利用目的を事前に公表している場合を除き、速やかに利用目的を本人に通知または公表しなくてはならない。
(2)書面等により直接本人から取得する場合には、利用目的を事前に本人に明示しなければならない。
採用時に企業等が履歴書を取得する行為は、その目的が明らかなので、選考のみに利用するのであれば、利用目的を本人にあえて明示しなくとも問題はないと考えられます。採用活動が終わり、既に個人情報の利用目的が達成されたのであれば、不採用の履歴書はもはや保管する必要がありません。したがって、すみやかに廃棄すべきでしょう。
そして、廃棄前の時点において、仮に、不採用者から履歴書の返却を求められたとすれば、企業等にとっては、法的な取り決めはないものの、条理上、又は企業イメージの維持向上等の観点からも、返却することが望ましいと考えられます。
また、 返却する場合は、個人情報の紛失とならないよう十分に留意する必要があります。具体的には、本人に直接受け取りに来てもらう。また郵送する場合であれば、書留で送るなどの配慮が必要です。