労働契約と就業規則との関係

Q.法定を上回る割増賃金を支払っています。新入社員から法定内割増率を適用したいのですが?

当社の就業規則は、法定労働時間を超える労働(いわゆる超勤、残業)に対し、30%の割増率で時間外手当を支払うと定めていますが、経営環境の悪化に伴い、この優遇措置が重荷となってきました。

しかしながら、変更すれば社員の強い反発が見込まれるので、新入社員から法定割増率を適用したいと考えました。契約時に十分説明し、合意を得たうえで雇用契約を結べば問題ないでしょうか?

A.就業規則を下回る条件の雇用契約は無効であり、就業規則の変更が必要です。

時間外労働の割増賃金について、労働基準法第37条は、通常の労働時間の賃金の計算額の25%以上で計算した割増賃金を支払わなければならない旨を定めています。この25%が法定割増率と言われるもので、使用者が守るべき最低基準です。25%を超える割増率で支払うことは、使用者の任意の判断であり、設問の会社では、法定を超える割増率30%を就業規則において定めていました。

さて、新入社員から割増率を法定どおりの25%にすることですが、仮に十分説明し、労働者の同意を得て契約を交わしたとしても、就業規則を下回る労働条件は無効です。労働契約法第12条(就業規則違反の労働契約)は、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則に定める基準による」と定めており、設問のケースはこの規定に抵触します。

したがって、使用者にとっては厳しい話ですが、就業規則を変更しない限り、新入社員に対しても30%の割増率を適用しなければなりません。

 

就業規則の変更はどのようにすればいいですか?

仮に、現在の社員は割増率30%、新入社員は割増率25%を適用するとして、就業規則を変更する場合の具体例は次のとおりです。

第○条 平成○年○月○日以降採用の者については、時間外労働の割増率を25%で計算する

と新しく条文を付け加えます。既定の就業規則において時間外労働の割増率を定めている条文に枝をつける(第○条の2)やり方や、当該条文にただし書き(ただし、平成○年○月○日以降採用の者については…)を付加する等のやり方も可能です。

しかし、より長い目で見たとき、一つの会社の中で時間外労働の割増率に差を設けることは、望ましいとは言えません。法令上、法定割増率さえクリアすれば、極端な話、社員一人一人で割増率が異なっても違法ではありません。けれども、それでは事務処理が煩雑になるばかりでなく、社員の間に不公平感が生じ、モラールダウンにもつながります。

全ての社員に経営環境が厳しいこと、現在の割増率は法定を上回る基準で、経費節減のためその引き下げが不可避であることを十分に説明し同意を得た上で、割増率を法定割増率どおりか、または法定割増率と現在の割増率との中間等とするよう就業規則を変更するのがベストです。直ちに引き下げることが難しい場合は、段階的に引き下げたり、一定の時間をおいた後に引き下げたり等の経過措置も講じる必要があります。いずれにしても、時間外労働の割増率は、全社的に統一することが大切です。

いったん法定を超える措置を設け、後日に法定基準まで引き下げることは、労働条件の不利益変更にあたり容易ではありません。こうしたことから、就業規則の作成にあたっては、それらの点を踏まえた慎重な検討が重要です。また、優遇措置を講じるときは、時間外手当等の固定的経費ではなく、経営状況を反映させやすい一時金等の方法を優先すること等も考えるべきでしょう。