懲戒解雇と解雇予告手当について
Q.非行により懲戒解雇した元従業員から、解雇予告手当の請求がありました。応じる必要はありますか?
当社の経理担当者が、長年にわたって売上金の一部を着服していたことが発覚しました。就業規則においては、従業員が横領等を行った場合、懲戒解雇処分とする旨を定めています。
そこで、従業員を即時解雇したところ、後日になってこの元従業員から解雇予告手当の請求書面が届きました。こうした請求に応じる必要はないと考えていますが、間違いないでしょうか?
A.解雇予告手当を支払う必要があります。
解雇と解雇予告手当との関係について、労働基準法第20条第1項は次のとおり定めています。「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合においては、この限りでない。」
設問のケースでは、従業員の横領を理由として解雇処分を行ったというのですから、但書に言う「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」にあたると考えられます。すると、解雇予告手当を支払わず即時解雇したことには、何ら問題がないように見受けられます。
しかし、ここで注意が必要です。同条の第3項を見ると、「前条第2項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する。」とあります。つまり、但書適用(天災事変や労働者の責に基づく解雇)の場合、前条である第19条の第2項を遵守しなければならないのです。ストレートに書かれていないため、つい見落としてしまう条文ですね。
そこで第19条第2項を見ると、「前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。」とあります。返すがえすも回りくどい定め方なので結論を言うと、但書の適用、つまり30日前の解雇予告又は解雇予告手当の支払を行わないとする場合、行政庁(労働基準監督署)の認定が必要です。
労働基準法は、より強い立場にあると考えられる事業主から、より弱い立場にあると考えられる労働者を保護することが目的です。このため、職務上の非行等、明らかに「労働者の責に帰すべき事由」であっても、公正中立な第三者的立場にあると考えられる行政庁のお墨付きなしに解雇予告又は解雇予告手当の支払義務は免除されません。こうしたことから、設問のケースでは、まさに「泥棒に追い銭」の印象ですが、元従業員の請求に応じて解雇予告手当を支払う必要があります。
解雇そのものが無効とされる可能性はあるのでしょうか?
けれども、もっと心配なことがあります。解雇予告又は解雇予告手当の支払を怠った場合、解雇そのものが無効とされる懸念はないか、ということです。
本来、いかなる条件であろうと、それが双方の自由意思に基づく限り、その契約は有効という民法に定める契約自由の原則があります(一般法)。これに対し、使用者と労働者という関係においてより弱い立場にあると考えられる労働者を保護するために労働基準法等(特別法)が定められているわけです。
解雇予告又は解雇予告手当の支払を怠ったとしても、それは特別法に定める手続上の瑕疵に過ぎません。労働者は誠実に労務を提供し、使用者は適正な対価を支払うという労働契約そのものに違反する非行による解雇であれば、解雇そのものは有効とするのが通説です。