労働局の是正指導強化

正社員と非正規社員の間の不合理な手当格差について厚生労働省の是正指導が強化されています

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「同法」と言います。)第8条は、使用者に短時間労働者・有期雇用労働者の基本給、賞与、その他の待遇のそれぞれについて、通常の労働者の待遇との間に不合理な格差を設けることを禁じています。近年、同法を管轄する厚生労働省労働局の雇用環境・均等室(以下「均等室」と言います。)は、事業所に対する是正指導を強化しています。日本経済新聞の報道によれば、2023年度の指導件数は、11月までで1,702社と、前年度の約12倍です。その要因として、2022年12月、同法第8条の浸透・定着に向けて、均等室と労働条件や職場の安全を主務とする労働基準監督暑とが連携し、これまで少なかった情報交換を密にする等の方針転換が図られたことがあります。この取組は、当初10労働局で、2023年からは全ての都道府県労働局に拡大されました。2023年11月の「デフレ完全脱却のための総合経済対策」の閣議決定など、複数の政府方針と相まって、今後一層、同法違反への指導強化が進むものと見込まれます。

正社員・非正規社員の賃金そのものはバランスを考量して決定

同法は、同一労働・同一賃金の法的要件を定めていますが、個々の事例に対して、それが同一労働に当たるか否かの判断は、決して容易ではありません。例えば、正社員と短時間労働者との場合、同じ作業をしていても、一日の労働時間は異なります。また、仮に、一日の労働時間が同じ場合でも、正社員は長期雇用の過程でのスキル アップが期待されますが、期間限定で働く有期雇用労働者はそうした期待はありません。こうしたことから、同法において、基本給や賞与など賃金そのもの決め方に関しては、正社員と非正規社員とのバランスを考慮すること等を「努力義務」として定めるにとどめています。言い換えると、正社員と非正規社員との間で、仮に、基本給や賞与が異なっていたとしても、均等室や他の行政庁が強い指導を行うは難しいと考えられます。

是正指導の対象となる各種手当等

多くの企業において、賃金は基本給+各種手当から構成されています。

同法第8条に基づく指導が強化されているのは、基本給や賞与以外のその他の待遇についてです。その他の待遇には、各種手当や慶弔休暇等があり、代表的な各種手当として役職手当、通勤手当、皆勤手当等があります。具体的にどのような場合、不合理な格差とされる恐れがあるか、厚生労働省が公表している事例を紹介します。

手当 正社員 非正規社員 不合理格差の判断
役職手当 役職内容について支給(1万円) 同一の役職を持つ短時間労働者に所定労働時間に比例した役職手当を支給(8千円) 不合理ではない
通勤手当 実費を支給 一日×単価で支給の結果、実費を下回る 不合理にあたる
皆勤手当 欠勤についてマイナス査定を行い、一定の日数以上出勤した場合に支給 欠勤についてマイナス査定を行わないため皆勤手当を支給しない 不合理ではない
慶弔休暇 慶弔休暇制度あり 勤務日の振替が困難な場合にのみ慶弔休暇を付与 不合理ではない