賃金支払いの原則

Q.社員から賃金を現金で支払ってほしいという申出がありましたが、断ることはできますか?

当社は、卸売業を営んでいます。社員は20名で、毎月の賃金は社員が指定した銀行等の口座への振込払です。

先日、社員のうち1名から、給料を現金で支払ってほしいとの申し出がありました。その社員だけ別の手続をするとなると、事務処理が煩雑となり非効率です。また、給与担当者や社員本人も多額の現金を持ち歩くこととなり、安全上の問題が生じる懸念があります。

こうしたことから、申出を断りたいと考えていますが、問題ないでしょうか?

 

A.社員が現金払を希望すると、会社は拒否できません。

賃金(給料)の支払方法は、法律で定められています。賃金は次に掲げるいわゆる賃金支払の5原則(労働基準法第24条)に則って支払わなければなりません。

(1)通貨で

(2)直接労働者に

(3)その全額を

(4)毎月一回以上

(5)一定の期日を定めて

(1)で言う「通貨(流通貨幣)」とは、国家により価値を保証され強制通用力のある、いわゆるお金(鋳造貨幣や中央銀行券)です。支払方法をお金に限定しているのは、価値が不明確なため換価に不便で弊害を招く懸念のある現物給与、つまり「(お金ではなく)もので支払うこと」を禁止する趣旨です。

また、(2)で言う「直接労働者に」とは、労働者本人へ手渡すことを意味します。たとえ労働者の親権者や法定代理人であっても、その者に賃金を渡すことは許されません。

つまり、法律上、賃金(給料)は、本来、現金を全額、労働者本人に手渡すべきとされているのです。

振込払をするためには、一定の手続が必要です。

法律上の原則は以上のとおりですが、現実には大半の会社が振込払と思います。それが認められるのは、労働基準法の運用の細目を定めた厚生労働省令において、「使用者は労働者の同意を得た場合には、賃金について労働者本人が指定する銀行その他の金融機関への振込みができる(労働基準法規則第7条の2)」としているからです。

なお、この同意は、個々の労働者から得る必要があり、労使協定によることはできません。

さて、設問によれば、社員は賃金を現金で支払うよう希望しています。本人の同意がなければ、口座振込によって支払うことはできません。したがって、使用者は申出を断ることはできず、原則どおりに現金で手渡さなければなりません。