割増賃金(Q&A2)

Q.住宅手当や皆勤手当は割増賃金の計算に算入しますか?

昨今の社会経済情勢の下、弊社も賃金引上げを迫られています。とは言え基本給は据置きたいので、新たに住宅手当と皆勤手当を設けることを考えました。住宅手当は、正社員のみを対象に一律15,000円。皆勤手当は、その月に欠勤がないことを条件として、正社員5,000円、パート従業員3,000円を支給します。

ところで、割増賃金の計算には算入する手当と算入しない手当とがあると聞きました。これらの手当はどちらに該当しますか?

A1.一律に支給する手当は割増賃金の計算に算入する必要があります。一方、住宅手当を正社員にのみ支給することについては、再検討すべきです

使用者は、従業員に対し時間外及び休日労働を命じたとき、労働基準法(以下「同法」といいます。)に定める割増賃金を支払う義務を負います。割増賃金のベースは、通常の労働時間の賃金です。

さて、通常の労働時間の賃金は、基本給はもとより、その他の各種手当を含みますが、手当の中には割増賃金の計算に当たって算入するものとしないものとがあります。同法及び厚生労働省令において、算入しない手当と定めているのは次のとおりです。

(1)家族手当 (2)通勤手当 (3)別居手当

(4)子女教育手当 (5)住宅手当

(6)臨時に支払われた賃金及び一ヵ月を超える期間毎に支払われる賃金

これらは福利厚生の意味合いがあることや、個人の事情や時々の状況等に基づいて支給されるもので、労働との直接の関係は薄いことから、割増賃金の計算に算入する必要はないとされています。また、限定列挙であり、それを除いた手当は全て算入します。

ここで注意すべきは、算入する・しないの判断は、手当の名称ではなく、その実態に基づいて行う必要があることです。設問の場合、名称は住宅手当ですから、算入不要とも考えられます。しかし、「正社員のみを対象に一律」に支払うのであれば、個人の事情や時々の状況等に基づく支給に当たらず、実質的に賃金と変わりません。したがって、割増賃金の計算に算入する必要があります。

仮に、この手当を賃金ではないものとするためには、例えば、住宅ローンの額のうち一定割合を支給するとか、又は居住スペースに応じた支給とするとかの方法が考えられます。

一方、設問のケースは、正規社員のみを対象に支給するということですが、この点は再検討すべきでしょう。「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下「パート処遇改善法」と言います。)に定める、通常の労働者と同視すべき短時間、有期契約労働者に対する差別的取扱いの禁止に抵触する可能性が大きいと認められるからです。パート処遇改善法は、正社員に比べ単に働く時間が短いことを理由として、待遇に差別を設けることを禁じています。正社員のみを対象に住宅手当を設けるのであれば、正社員は転勤の可能性があるなど、キャリア形成においてパートタイマーとは明確な違いがあることを説明できなければなりません。

A2.皆勤手当は割増賃金の計算に算入します

次に、皆勤手当についてです。皆勤手当を支給する企業は少なくありません。欠勤等のなかった従業員に対する報償を目的とすることから、労働と直接に関係している手当であり、同法等において算入不要とされる手当にも当たりません。したがって、通常の労働時間の賃金として割増賃金の計算に算入することが必要です。

改めて言うと、割増賃金の計算に当たっては、算入すべき手当の確認は極めて重要です。算入漏れがあると、労働に対する時間単価がより少なく計算されるので、結果として賃金の未払につながります。

各種手当の算入漏れによる賃金未払は、労働基準監督署の立入調査で発覚することが少なくありません。いったん指摘を受けると、未払分の清算を逃れることはできず、一時的な多額な支出をもたらし、そのための事務コストも膨大に上ります。

ところで、社会の趨勢として、各種手当は廃止の方向に向かいつつあります。新たに手当を設けるよりは、その分を基本給に取り入れるか、それが好ましくなければ、一時的な所得である賞与として報いる方が、より得策であると考える次第です。