退職時の証明等

Q.退職願に事実と異なる退職事由が記載されています。受理しても問題ないでしょうか?

無断欠勤を繰り返し顧客ともトラブルを起こすなど、好ましくない労働者がいます。見かねた上司が注意すると、逆に、「パワハラだ」などと騒ぎ立てる始末です。

就業規則に基づき懲戒処分を検討中のところ、本人から退職願が提出されました。それを見ると、退職事由として「上司のパワハラにより心身不調に陥ったため」とあります。辞めてもらいたいことは山々ですが、そのまま受理して後日問題となることはないでしょうか?

 

A.退職願の内容は労働者の自由意思ですから、受理したといって、事業主がそれを事実と認めたことにはなりません

先に結論を言うと、そのまま受理して自己都合退職扱いとすることに、何ら問題はありません。

退職願とは、労働者と事業主との合意に基づく労働契約を、労働者側の申出により終了させることです。退職願の内容、すなわち退職すること自体、退職時期、退職事由等は、原則として当該労働者の自由意思に委ねられています。それに対して事業主側は、例えば、有期労働契約の期限前の退職により損害が生じたとき、賠償を求めること等はできるものの、退職願の内容について変更を強制することはできず、また、受理を拒むこともできません。

ただし、受理したからといって、事業主が退職願の内容をすべて事実として認めたことにはなりません。事業主は、労働者にもはや勤務を継続する意思がないことを確認したに過ぎず、退職事由は単に労働者の見解というにとどまります。

 

A.退職時証明書に退職事由の記載を請求されたときは、「自己都合退職」の旨を記載します

使用者(事業主)は、労働者が退職するにあたり退職時証明書を求めたとき、これを遅滞なく交付しなければなりません(労働基準法第22条第1項)。証明書の内容は、(1)使用期間 (2)業務の種類 (3)その事業における地位、賃金 (4)退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む) のうち労働者が請求する事項で、「請求のない事項を記入してならない(同法同条第3項)」とされています。

退職時証明書による証明事項は、労働者の請求があったものに限られますが、その内容は事業主の責任であり、労働者と合意したうえで作成する必要はありません。

したがって、設問のケースで労働者から退職時証明書の請求があり、かつ、退職の事由についても請求があったとき、事業主としては「自己都合による退職」である旨を記載すれば、労基法上の義務を果たしたことになります。退職願の退職事由と退職時証明書の退職事由が異なっていても、それは労働者と事業主との見解の相違であると言うに過ぎません。

 

A.退職時証明書に事実と異なる記載をすると、後日大きなトラブルを招く恐れがあります

退職時証明書は、一義的には再就職活動に用いるものと考えられますが、退職に関わる労働紛争に使用される可能性もあります。

したがって、交付時に労働者とのあつれきを回避しようとして「退職勧奨による退職」など、事実と異なる記載をすれば、労基法上の義務違反にあたるばかりか、それを証拠として新たなトラブルを招くことにもなりかねません。

繰り返すと、退職願の退職事由は労働者の見解であり証拠能力はありません。これに対し、退職時証明書は事業主が作成するもので、事業主はその内容について責を問われることとなります。