職場の熱中症対策の義務化

熱中症の死亡者数は高止まりし更なる増加が危惧されています

熱中症は、高温多湿な環境下において体温が上昇し、身体の調節機能を超えることによって生じます。初期の症状としては、大量の発汗やめまい、顔のほてり、筋肉痛やけいれん、吐き気等があり、適切な対応を怠ると、最悪の場合、死亡に至ります。厚生労働省によれば、令和5年から過去5年間の熱中症による死亡者数、及び熱中症による労働災害死亡者数は次のとおりです。

死亡者数(人) うち労働災害死亡者数(人)
令和5年 1,651 31
令和4年 1,477 30
令和3年 755 20
令和2年 1,528 22
令和元年 1,224 25

年毎の気象状況にも左右されますが、死亡者数は近年高止まりしています。この統計が開始された平成7年と比して、令和5年は約5倍に上りました。うち労働災害、つまり仕事中の熱中症による死亡は2年連続30人レベルと、労災死亡全体の約4%を占めています。近年の気候変動の影響により、今後は更なる増加が危惧されており、発生を防止するとともに、仮に発生した場合でも、死亡に至らせない適切な対策が求められています。

令和7年6月1日から対象となる作業について職場の熱中症対策が義務付けられます

熱中症の重篤化防止を目的として、労働安全衛生法施行規則が改正されました。令和7年6月1日以降、事業者は熱中症のおそれがある作業を行わせる際、症状悪化を防止するために必要な措置の実施手順を事業場毎に予め作成しておくこと等が義務付けられます。

「熱中症のおそれがある」として対象となるのは、WBGT(湿球黒球温度)基準値28度以上または気温31度以上の場所で継続して1時間以上または1日当たり4時間を超える実施が見込まれる作業です。必要な対策は、「熱中症の自覚症状がある作業者」や「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」がその旨を報告するための体制づくりです。具体的には担当者及び連絡先の周知、作業からの離脱や身体の冷却、医師の診察又は処置を受けさせること、事業場における緊急連絡網及び緊急搬送先の連絡先など、症状の悪化を防ぐための措置の実施手順を定めて、事業場内や関係者へ周知します。

ところで、WBGT基準値は、暑熱環境による熱ストレスの評価を行う暑さ指数とされています。計測には特別な測定器が必要なため、事業場で実際に測定を行うことは現実的ではありません。環境省「熱中症予防情報サイト」を見ると、令和7年5月現在、全国の情報提供地点約840地点、実測値の情報提供地点47地点(都道府県毎1地点)が表示されています。

しかし、暑さは作業を行う場所の立地や室内条件等によって大きく異なるため、このサイトの確認のみでWBGT基準値に収まっているかを判断することは困難と考えられます。こうしたことから、サイトの表示を参考の一つとしたうえで、WBGT基準値を超える懸念がある場合は、冷房等の使用や作業場所及び作業内容の変更など、WBGT基準値の低減につながるような対応が必要です。その上で、WBGT基準値を超える懸念が解消されないときは、更に次の対策等を取ることが求められます。

・屋外では直射日光や周囲の壁面及び地面からの照り返しを遮ることができる簡易な屋根等を設ける。

・作業場所の近隣に冷房を備えた休憩場所又は日陰等の涼しい休憩場所を設ける。

・作業時間の短縮や計画的な暑熱順化期間の設置

・水分および塩分の摂取、服装等・作業中の巡視

・健康診断結果に基づく対応や健康状態の確認等

・労働衛生教育の実施