労使協定を結ばすに届けた36協定の効力

Q.労使協定を結ばずに届け出た「時間外労働・休日労働に関する協定届(様式第9号)」の効力は?

 

私は、正規社員15名、パートタイマー3名を雇い入れて、金属製品製造業を経営しています。臨時の受注や納期の変更があった場合等、時間外労働や休日労働を命ずることがあります。

 

先日、労働基準監督署長に「時間外労働・休日労働に関する協定届(様式第9号)」を提出した際、監督官から「労使協定は結んでありますか?」と尋ねられました。当社には親睦会はありますが、労働組合はありませんから、今までずっと労使協定を結ばないまま届出をしてきました。

 

その場合、協定届の効力はどうなりますか?また、いったいなぜ、労使協定を結ばなければならないのでしょうか?

 

 

A.労使協定が結ばれていなければ、協定届は無効です。

先に結論を言ってしまうと、労使協定が結ばれていなければそれらの協定届は無効です。

時間外労働・休日労働をさせるための要件は労働基準法第36条に定められているので、時間外労働・休日労働に関する労使協定は、「36(サブロク)協定」と通称されています。

同条は、「使用者は(中略)書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては(中略)その協定の定めるところによって、労働時間を延長し、又は、休日に労働させることができる。」と定めています。つまり、書面による協定(労使協定書)は協定届の前提であり、それを欠いた届出は無効ということになります。

労使協定制度の趣旨は何ですか?

近代法の基本的かつ重要な原則の一つとして、契約自由の原則があります。これは、私人間(しじんかん)の契約関係は、当事者の自由な意思と双方の合意に基づいて決定されるべきで、国家(行政)はできる限り干渉してはならないというものです。

ところが、そうすると、いかに不当で苛酷な労働条件であっても、同意して契約を結んだ以上、まったく合法かつ有効であり、労働者はその労働契約に拘束されることとなってしまいます。そこで、契約自由の原則の例外として、さまざまな労働関係法令が整備されてきました。なかでも労働基準法は、労働者保護の観点から、国家行政が使用者に一定の行為を禁ずる、行政取締法としての性質を有しています。

法令が原則として禁止している事項を例外的に許容するときは、個々の労働者ではなく、その事業場の労働者全体の見地から判断することが大切です。このように考えると、労使協定制度の趣旨は、その必要があると認められる場合、本来適用すべき法令上の原則を適用せず、労働者の団体意思が同意した範囲内で例外的な取扱を許容することにあるといえます。

使用者と労働者の団体意思が同意した内容を書面にしたものが、労使協定書です。協定届(様式第9号)は、そのことを前提として、所管の行政庁である労働基準監督署長に労使協定を結んだ事実及びその労使協定の内容を届け出る書面です。

ただし、協定届において労働者の団体意思が同意した事実が証されているとき、具体的には労働者側の署名捺印があるとき、その協定届は労使協定書を兼ねるものとして認められます。