緊急時の超過勤務に伴い36協定の上限を超えた場合の対応
Q.緊急時に超過勤務をさせて、その結果、時間外・休日労働協定書の限度時間を超えた場合、どのような対応が必要ですか?
弊社は、労使協定(以下「36協定」と言います。)において、時間外労働・休日労働の限度時間を1日3時間、1ヶ月45時間、1年間360時間と定めています。休日労働及び特別条項は締結していません。先日、豪雨のために、社屋の一部が浸水しました。終業後も従業員総出で排水し、更に翌日の休業日、一部の社員を出勤させて後片付けに当たらせました。その結果、複数の従業員が1ヶ月の限度時間を超過してしまいました。法令違反にあたるものとして、労働基準監督署に報告する必要がありますか?また、その他に必要な対応はないか、ご教示ください。
A.すみやかに労働基準監督署長へ「非常災害等の理由による労働時間延長・休日労働許可届」を提出する必要があります
労働者に時間外労働及び休日労働を命ずるためには、予め36協定を結んで、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。36協定の効果は、本来は法令違反である時間外労働等を、合法的に行えるようにすること(免罰効果)です。
また、協定に盛り込むべき事項は、時間外労働及び休日労働をさせる必要のある具体的理由や業務の種類、労働者の数、1日・1ヶ月並びに1年について延長することができる時間、労働させることができる休日、協定の有効期間等です。延長できる時間は、1日・1か月並びに1年のそれぞれについて、上限を定める必要があります。原則として、1日は上限なし、1か月45時間、1年360時間です。それらの時間を超えて更に働かせる特別な事情が考えられる場合は、特別条項を締結することができ、締結したときの上限は、1か月45時間を年6回まで、1年720時間、法定休日労働を含め複数月平均で80時間及び月100時間未満です。
以上が労働基準法(以下「同法」といいます。)の原則ですが、この外に、同法第33条(災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等)は、第1項において次のとおり定めています。
「災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合(中略)行政官庁の許可を受けて、その必要の限度において(中略)労働時間を延長し(中略)休日に労働させることができる。ただし(中略)許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滞なく届け出なければならない。」
設問は、この規定を適用できる事例と考えられます。したがって、直ちに法令違反にあたりませんが、すみやかに所轄労働基準監督署長へ「非常災害等の理由による労働時間延長・休日労働許可届」を提出して、その判断を仰ぐことが必要です。
注意すべきは、同法第33条は、第36条の労使協定によって可能となる時間外労働等とは別の主旨で定められていることです。災害等により臨時の必要がある場合は、労使協定がなくとも時間外労働等を行わせることができ、それらの時間は、36協定で定めた時間等へカウントすることもありません。ただし、何をもって「臨時の必要がある場合」と認めるかは、厳格かつ限定的に捉えるべきで、概ね次のとおり判断基準が示されています。
・ 単なる業務の繁忙その他これに準ずる経営上の必要は認めない。
・ 地震、津波、風水害、雪害、火災等の大害への対応は認める。
・ 急病への対応その他人命又は公益を保護するための必要な行為は認める。
・ 事業の運営を不可能ならしめるような突発的な機械、設備の故障の修理、保安やシステム障害の復旧は認める。
・ 通常予見される部分的な修理、定期的な保安は認めない。
事前許可が原則ですが、暇がないときは事後の届出で足り、それらを怠れば処罰の対象となり得ます。また、労働基準監督署長は、時間外労働等が不適切と認めた場合、事業主に対して、それらの時間に相応する休憩又は休日を労働者に与えるように命ずることができます。