労働基準法施行規則の改正(令和6年4月1日施行)

労働基準法施行規則の改正により、雇入れ時に明示することを義務付けている労働条件が追加されます

労働基準法第15条は、労働契約の締結に際して、使用者は労働者に対し賃金、労働時間、その他の労働条件を明示することを義務付けています。具体的には、使用者は労働者に対して、労働条件通知書を交付します。その他の労働条件として明示すべきものは、労働基準法施行規則第5条(以下、「同条」と言います。)において、次のとおり定められています。

(1)期間の定めのある労働契約では、更新する場合の基準

(2)就業の場所及び従事すべき業務に関する事項

(3)始業及び就業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇

(4)賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

(5)退職に関する事項

(6)退職手当がある場合では、退職手当の決定、計算及び支払方法並びに支払の時期

(7)賞与の有無

同条の改正により、全ての労働者に対し明示すべき労働条件として、「将来の配置転換等に伴い、変わり得る就業場所・業務の範囲」が追加されました。

【記載例】〇就業の場所(雇入れ直後):新宿営業所

(変更の範囲):23区内の営業所

〇従事すべき業務の内容(雇入れ直後):顧客管理

(変更の範囲):営業

有期契約労働者の場合、無期転換ルールの記載を義務付けました

これらに加え、期間の定めのある有期契約労働者の場合、無期転換ルールについて記載することを新たに義務付けています。

無期転換ルールは、労働契約法第18条に基づく制度です。有期契約労働者が、契約更新を重ねて通算契約期間が5年を経過した場合、本人申出により次の契約から無期労働契約に転換することができます。無期転換ルールの行使は、労働者の強い権利であり、使用者はその申出を拒むことは認められません。

本制度が定められた背景として、有期労働契約に関する紛争の多発があります。有期契約労働者は、長期にわたり契約更新を繰り返しており、実態として期間の定めの無い労働者(正社員)と変わらないにもかかわらず、賃金等様々な待遇面に大きな格差がありました。また、何度も更新を繰り返した挙句、突然更新を打ち切られるなど、不安定な雇用環境を強いられていました。

本制度が施行され、今年で10年を迎えますが、厚生労働省の調査によれば、制度知識がある者の割合は、有期契約労働者の約4割程度に留まっています。依然、周知が不十分な実態が窺えます。

今回、同条の改正に伴い、有期契約労働者に対し明示すべき労働条件として、無期転換ルールに関する内容が追加されました。このことに伴い、今後、制度周知が進み、無期転換の機会が増えることが期待されます。明示すべき労働条件として追加された項目は、次のとおりです。

(1)更新上限の有無

(2)無期転換申込機会(無期転換の申出ができる日付)の明示

(3)無期転換後の労働条件の明示

労働条件通知書と労働契約書の違いとは

令和6年4月1日以降、使用者は、前記の内容を盛り込んだ労働条件通知書の交付を義務付けられます。契約締結時はもとより、契約内容に変更があった場合も同様です。

ところで、労働条件通知書と類似の書類として労働契約書がありますが、両者の違いは何でしょう。労働契約書は、一般法である民法に基づきます。民法上の契約は、双方の合意があれば特段の制約はありませんし、口頭でも可能です。それに対して、労働条件通知書は、特別法、かつ、強制法規である労働基準法に基づきます。書面の交付を怠ったり、記載事項やそれらの内容等が、法令の定めやそれらの趣旨に反していたりする場合、当該労働条件は無効とされ、又は違法に当たるとして罰則の対象ともなり得ます。

一方、労働契約書として作成した書面であっても、労働条件通知書の求める要件を満たし、かつ、労働者に交付されていれば、それは労働条件通知書としての効力を併せ有することとなります。