一般健康診断をめぐる問題

Q.健康診断を受診していなかった労働者が病気になりました。使用者が責任を問われることはありますか?

当社は、従業員に対し、年に複数日を指定して会社指定の病院で健康診断を受診することを義務づけています。ところが、ある社員は指定日に業務都合等が重なった結果、ここ3年間受診していません。この間、スケジュールを調整して受診するか、人間ドック等、他の受診結果を提出するよう指導してきました。

この社員が、突然、肝機能不全を理由に休職を申し出、手続中のところ、配偶者が来社し「健康診断を受けていなかったので、病気に気づくのが遅れた。会社側の管理責任である。」と大変な剣幕です。こうした状況でも、会社側の責任は問われるのでしょうか?

 

A.受診機会を与えていれば、使用者が責任を問われることはありません

安全衛生法(以下「同法」と言います)は、事業者に労働者に特定健康診断、及び一般健康診断を行うことを義務づけています(同法第66条)。特定健康診断は、アスベスト関連など政令で定める特別な業務を対象とするので、以下、一般健康診断を前提に説明します。

結論から言うと、会社側が責任を問われることはありません。同法の前記規定を見ると、会社側の指定方法で受診するか、又は他の健康診断結果の書面提出により代えることができる旨を定めています。つまり、会社側は受診機会を与えれば足りるので、設問のケースは、こうした義務を十分に果たしたと考えられます。

なお、健康診断を実施しなかった使用者は、罰則の適用があります(同法第120条)。これに対し、受診義務を果たさなかった労働者に対して法令上の罰則はありませんが、社内秩序義務違反として懲戒処分することは可能とされています。

 

Q.健康診断の時間は、有給にすべきでしょうか?

当社の健康診断は、複数日、受診機関が来社して実施しています。

正社員の場合、勤務時間の合間に受診し、有給扱いです。また、パート社員の場合、出勤日、勤務の合間に受診すれば正社員と同じと考え、有給扱いとしてきました。

ところが、今年、たまたま受診日が出勤日にあたらないパート社員があり、当該日に受診すれば、その日を出勤日として給与を支払うよう要求されました。どうすればいいでしょうか?

 

A.法的には、有給とすべき義務はありません

特定健康診断の受診は業務命令できますが、一般健康診断はできません。したがって、一般健康診断は、業務の一部とはいえず、使用者が最低限担うべき福利厚生の一環と捉えるべきでしょう。

正社員の場合であっても、健康診断の受診時間を有給とすべき法的な根拠はありません。たとえば、社内で行う健康診断の受診は有給扱いとし、人間ドック等、他の受診機関での受診は無給(有給休暇扱いを含む)とすることも、何ら問題ありません。

設問のように、複数日、勤務日における受診機会を設けていれば、たまたまそれにあたらなかったパート社員があり、受診日を出勤日として有給扱いすることを要求されたとして、それに応える義務は、少なくとも法的にはありません。

ただし、他の受診機関における受診等の取扱いを、正社員、パート社員それぞれどうしているか等とのバランスも考慮すべきです。

こうしたことから、先ずは勤務日の変更等、可能な方策を検討することが先決と考えられます。