災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等に係る許可基準の一部改正

Q.台風に伴う計画運休に備えるため36協定対象外の従業員に超過勤務をさせました

大型台風の襲来が見込まれる中、交通事業者が始発から一定の時間、計画運休を実施すると発表しました。その日は、顧客対応で外せない業務を予定しています。そこで、定時に出勤困難な従業員等は会社に前泊させることとし、総務担当に指示して貸布団や食事の手配など翌日の備えをさせました。ところで、総務担当はこれまで超過勤務の実績もなかったことから、36協定の対象外です。その日は結果として超過勤務になってしまいましたが、法令違反にあたりますか?また、必要な対応等があれば、ご教示ください。

A.労働基準監督署長が災害等による臨時の必要があると認めたときは法令違反になりません

従業員を、法定労働時間を超えるか又は法定休日に労働させる場合、使用者は、あらかじめ労働基準法(以下「同法」と言います。)第36条に基づく労使協定(以下「36協定」と言います。)を締結し、労働基準監督署長(以下「監督署長」と言います。)に届け出る必要があり、怠った場合、同法違反として処罰の対象となります。

一方、同法第33条(災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等)は、災害その他避けることのできない事由により臨時の必要がある場合、使用者は行政庁の許可を得て、必要な限度において法定労働時間を延長し、又は法定休日に労働させることができる旨を定めています。つまり、36協定なしで時間外労働等をさせても違法にはあたらない、ということです。

事前届出が原則ですが、事後に遅滞なく届け出れば問題ありません。「平成28年労働基準監督年報」(厚生労働省)によれば、同年の申請件数は全国で159件、うち許可を得たのは113件でした。許可を得た場合、当該労働時間は36協定に基づく時間外労働又は休日労働にはカウントしません。ただし、割増賃金の支払はもとより必要です

具体的にどのような場合、「臨時の必要」があると認めるかは、労働基準局長の通達によって基準を定めています。その一部について、令和元年6月1日付で改正がありました。

(1)単なる業務の繁忙その他これに準ずる経営上の必要は認めないこと

(2)地震、津波、風水害、雪害、爆発、火災等の災害への対応、急病への対応その他の人命又は公益を保護するための必要は認めること。例えば、災害その他避けることのできない事由により被害を受けた電気、ガス、水道等のライフラインや安全な道路交通の早期復旧のための対応、大規模なリコールは含まれること

(3)事業の運営を不可能ならしめるような突発的な機械・設備の故障の修理、保安やシステム障害の復旧は認めるが、通常予見される部分的な修理、定期的な保安は認めないこと。例えば、サーバへの攻撃によるシステムダウンへの対応は認めること

(4)上記(2)及び(3)の基準については、他の事業場からの協力要請に応じる場合においても、人命又は公益の確保のために協力要請に応じる場合や協力要請に応じないことで事業運営が不可能のなる場合には認めること

許可の対象は、災害その他避けることのできない事由に直接対応する場合に加えて、当該事由に対応するにあたり、必要不可欠に付随する業務を行う場合を含むとされています。具体的には、例えば、事業場の総務部門において、当該事由に対応する従業員に供するために食事や寝具の準備をする場合等です。

設問はそうしたケースに該当すると考えられますが、翌日の顧客対応の内容に従業員を前泊させるまでの必要性があったかは、監督署長の判断次第です。計画運休を知った時点で直ちに「非常災害等の理由による労働時間延長・休日労働許可申請書」を提出し、許可を得ることが最も望ましい対応でした。仮に、許可を得られなかった場合は、36協定の対象の従業員に業務を行わせる必要があります。今回は次善の策として、遅滞なく事後の届出を行うことが必要です。その場合、仮に、不許可となっても、監督署長名の指導程度に止まり、直ちに罰則を適用される懸念はまずありません。