雇用保険法のマルチジョブホルダー制度
65歳以上の高年齢者雇用に係る法改正等が続いています
令和元年6月に閣議決定された成長戦略実行計画は、65歳から69歳までの就業率を2025年までに51.6%以上とすることを目指すとしました。これを受けて、令和3年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法により、企業は65歳までの雇用確保義務に加えて、65歳から70歳までの就業機会を確保するための措置を講ずることが、努力義務とされました。この他にも、65歳以上の高年齢者雇用に係る法改正等が続いています。国民年金法の改正により、年金受給開始年齢の上限は、令和4年4月以降、70歳から75歳に引き上げられます。また、これまで65歳以上の就業者の年金額は、65歳に達した時に決定した額が退職まで適用され、その間再計算はしませんでした。改正後は、就業中毎年計算することとされ、厚生年金額が1年毎に変動する可能性があります。一方、雇用保険においては、複数の事業所で就業している65歳以上の労働者を対象とするマルチジョブホルダー制度が、令和4年1月1日から施行されます。
雇用保険のマルチジョブホルダー制度が創設されました
マルチジョブホルダー制度は、複数の事業所で就業している65歳以上の労働者が、申し出ることによって、雇用保険の被保険者(以下「マルチ高年齢被保険者」と言います。)となることができる制度です。マルチ高年齢被保険者がいずれかの事業所を離職した場合、雇用保険の高年齢求職者給付金が支給されます。制度の概要は次のとおりです。
(1)マルチ高年齢被保険者となることができる要件
① 2つ以上の事業所での勤務を合計して、1週間の所定労働時間が20時間以上であること
② それぞれの事業所での雇用見込みが、31日以上であること
③ それぞれの事業所での一週間の所定労働時間が、5時間以上20時間未満であること
なお、一つの事業所での1週間の所定労働時間が20時間以上ある場合は、マルチ高年齢被保険者としてではなく、高年齢被保険者として、雇用保険へ強制加入することとなります。
(2)マルチ高年齢被保険者となる手続き
労働者自身が、自己の住所地を管轄するハローワークに申し出ます。「雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届」を、出勤簿・給料明細・労働条件通知書等の添付書類とともに提出します。この取得届には事業主が記載する欄があり、添付書類を用意する上でも、事業主の協力は不可欠です。また、事業主が労働者を代理して手続を行うことは可能ですが、提出先は、事業所の所在地を管轄するハローワークではないことに注意が必要です。
(3)資格取得日と雇用保険料
マルチ高年齢被保険者の資格取得日は、ハローワークに申出を行った日です。事業主と雇用契約を結んだ日ではありません。また、雇用保険料は、通常の雇用保険と同様に、それぞれの事業主が支払う賃金総額に保険料率を乗じて算定します。
(4)資格喪失の手続
マルチ高年齢被保険者が事業所を離職するときは、それぞれの事業所の「雇用保険マルチジョブホルダー喪失・資格喪失届」及び「雇用保険被保険者離職証明書」を作成し、添付書類とともに労働者の住所地を管轄するハローワークに提出します。仮に、2つの事業所に就業する労働者がいずれかを離職すれば、もはや「マルチ」とは言えず、資格要件を欠くこととなります。したがって、就業中の事業所においても、喪失手続を行う必要があります。これらのいずれにも、事業主の協力は欠かせません。
なお、一連の手続にあたって、事業主には労働者の申出拒否、または申出を理由とする不利益取扱は、もとより禁じられています。