カスタマーハラスメントへの対応義務付け

Q. カスタマーハラスメントへの対応措置が義務付けられたと聞きました。そもそもカスタマーハラスメントとはどのような行為ですか?また措置義務の具体的内容をご教示ください。

小売業を営む者です。最近、カスタマーハラスメント(以下、「カスハラ」と言います。)という言葉を耳にする機会が増えました。そもそもカスハラとはどのような行為ですか?また、事業主に対してカスハラに対応するための措置が義務付けられたとのことです。具体的な内容をご教示ください。

A. カスハラは顧客等からの著しい迷惑行為や社会通念上不当な要求等により労働者の就業環境が著しく害されることです。

本年6月4日に成立した改正労働施策総合推進法により、事業主に対して、カスハラ及び就活等セクシャルハラスメント(以下、「就活等セクハラ」と言います。)に対応する措置を講じることが義務付けられました。ハラスメントは、いじめや嫌がらせを意味する言動や行動で、他者へ著しい不利益や不快感を与えるものが該当します。ハラスメントは法に基づいて規制されるものから、個人の主観にわたるようなものまで多種多様であり、現在100種類以上に上るとも言われます。法対象の内外を問わず、○○ハラという言葉が巷にあふれている状況です。パワーハラスメント(以下、「パワハラ」と言います。)、セクシャルハラスメント(以下、「セクハラ」と言います。)、妊娠・出産・育児に関わるハラスメント(以下、「マタハラ」と言います。)及び介護休業等に関わるハラスメントについては、既に事業主に対し防止等の措置を法的に義務付けていました。今回の法改正により、カスハラ及び就活等セクハラが新たに追加されたわけです。

さて、カスハラは顧客等からのクレームにより生じますが、もとより全てのクレームを指すものではありません。商品やサービス等への苦情や改善を求めるクレームは、顧客等の正当な権利と言えます。一方、過剰な要求や商品やサービスに対する不当な言いがかりにあたるクレームがあります。こうしたクレーム等のうち、当該要求を実現するための手段や態様が社会通念上不相当なもので、当該手段や態様により労働者の就業環境が害されると認められるものがカスハラにあたります。令和5年度厚生労働省委託事業「職場のハラスメントに関する実態調査」によれば、「カスハラについて相談があった」と回答した企業は27.9%。「カスハラに該当すると判断する事例があった」企業は86.8%。過去3年間のハラスメント発生状況として、パワハラなど他のハラスメントは「件数は減少している」が「増加している」を上回ったのに対して、カスハラ及び就活等セクハラは「増加している」が上回りました。企業調査において、業種別に見てカスハラ相談件数の割合が高いのは「医療、福祉」(53.9%)、「宿泊業、飲食サービス業」(46.4%)、「不動産業、物品賃貸業」(43.4%)。一方、労働者への調査で「カスハラを受けた経験がある」との回答

が多かった業種は「生活関連 サービス業、娯楽業」(16.6%)、「卸売業、小売業」(16.0%)、「宿泊業、飲食サービス業」 (16.0%)と、業種による大きな差は見られません。同じく労働者への調査によるカスハラの内容は、「継続的な執拗な言動」(72.1%)、「威圧的な言動」(52.2%)、「精神的な攻撃」(44.7%)など。カスハラの行為者は、「患者又はその家族等を含む顧客等」(82.3%)、「取引先等の他社の従業員・役員」(22.6%)、「その他」(1.4%)との結果でした。

A. 措置の具体的内容は今後指針において示されますが、基本的に他のハラスメントと大きな差はないと見込まれます。

カスハラ及び就活等セクハラに関わる措置義務の具体的な内容について、厚生労働省は今後指針において示すとしています。ただし、他のハラスメントと大きな差はないものと見込まれます。参考までに、想定される主な取組内容を取りまとめると、次のとおりです。

(1)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

(2)相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備

① 相談先をあらかじめ定め、労働者に周知

② 相談先が内容や状況に応じ適切に対応できるための研修等

(3)被害者への配慮のための取組

(4)他の事業主が雇用する労働者等からのパワハラやカスハラによる被害を防止するマニュアル作成や研修等