労働災害事故が発生した時の対応
労働災害事故の死傷者数が増加しています
厚生労働省「令和4年労働災害発生状況(6月速報値)」によると、令和4年1月1日から5月31日までに発生した労働災害(以下「労災」と言います。)による死亡者数275人(前年同期比11.3%増)、4日以上の休業を必要とする死傷者数64,393人(同34%増)と、いずれも大きく増加しました。死亡災害の第1位は「墜落・転落」。第2位は「挟まれ・巻き込まれ」。第3位は「飛来・落下」です。また、死傷災害では、主に新型コロナウイルス感染症による労災を示す「その他」を除くと、「転倒」が第1位。次いで、「墜落・転落」、「動作の反動・無理な動作」と続きます。
製造業や建設業の労災件数が減少傾向にある一方、小売業や介護等第三次産業における労災が増加しています。それらは、死亡に至るほどではないものが多い、「転倒」や「動作の反動・無理な動作」に起因するものが多い、等が特徴です。その原因として、高齢労働者や外国人労働者の増加の影響等が考えられます。
実際に労災事故が発生したときの初期対応や注意点は
(1)健康保険証を使用しないこと
実際に労災が発生したとき、先ずは被災者の治療が第一です。現場での治療が困難な場合、病院等の医療機関へと移送します。その際には、病院等に対し労災であることを明確に伝えるとともに、健康保険証を使用しないことが大切です。仮に、健康保険証を使用して一部自己負担した場合、後日に労災の手続をすれば、自己負担分は返金されます。ただし、被災者本人が直接病院等へ出向かなければならないなど、余計な手間を要するので注意してください。
(2)労災指定病院かそうでないかを確認し、所定の手続を
次に、移送先が労災指定病院か、そうでないかを確認します。労災指定病院であれば、「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付請求書(以下「様式第5号」と言います。)」を提出することにより、費用の支払いなしで治療を受けることができます。
それに対して、移送先が労災指定病院でなかった場合、治療費は被災者がいったん全額自己負担しなければなりません。後日、領収証を添付して、「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書(以下「様式第7号」と言います。)」によって労働基準監督署長に請求すると、負担額が支払われます。支払は金融機関の被災者名義の口座へ振込みとなるので、領収証の宛名は必ず被災者本人とする必要があります。請求が認められるのは、治療費に加えて、移送(通院)に要した費用も対象となり得ます。後日の請求に備え、必ず領収証を受け取って保管しておくことが大切です。
通勤災害時の対応も、基本的に変わりません。ただし、労災と通勤災害とでは請求書の様式が異なります。通勤災害で移送先が労災指定病院の場合、「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3)」、そうでない場合、「療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第16号の5)」をそれぞれ使用します。これらの請求は、原則として被災者本人が行います。しかし、使用者の協力は欠かせないので、使用者の担当者も仕組みをきちんと理解しておきましょう。
労災指定病院からそうでない病院への転院やその反対も可能です
治療のために通院が必要なとき、最初に受診した病院から別のところに転院した方が都合の良い場合があります。そのときも、転院先は労災指定病院かそうでないか確認が必要です。労災指定病院からそうでない病院への転院は、様式第7号による請求となり、いったん全額自己負担が必要です。反対に、そうでない病院から労災指定病院への転院は、様式第5号を使用し、以降の立替払いはありません。一方、労災指定病院同士の転院のときは、転院先へ「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届(様式第6号)」を提出し、その場合、窓口での支払は発生しません。