65歳退職と雇用保険の求職者給付との関係

Q.定年を控えた社員から65歳を過ぎて退職すると雇用保険上不利益になるのでその前に退職したいとの申出がありました。具体的にどんな不利益があるのか、また、退職理由はどうすべきか等々、ご教示をお願いします。

弊社は、就業規則において定年を65歳の誕生日が属する月の末日と定めています。先日、勤続30年で定年を控えた社員から、65歳を過ぎて退職すると、雇用保険上不利益を被るため、誕生日前に退職したい、との申出がありました。具体的に雇用保険上の不利益とは、どのようなことが考えられますか?また、その場合、退職事由はどうすべきでしょうか?そもそも、同様の理由で誕生日前の退職を希望する者が増えた場合、就業規則を 見直す必要がありますか?

A1.退職時の年齢が65歳を超えると一般被保険者ではなく高年齢被保険者となります。その結果、求職者給付金の内容が変わり、受給できる給付金の総額が少なくなります。

雇用保険に加入する被保険者が失業し、所得の源泉を喪失したとき、仮に、労働の意思があるにも関わらず就業できない場合、労働者の生活の安定及び就職の促進を目的として、国の求職者給付金を受給することができます。

ところで、被保険者及び給付金には、次の4つの区分があり、支給要件及び給付内容はそれぞれ異なります。

(1)一般被保険者:基本手当

(2)高年齢被保険者:高年齢求職者給付金

(3)短期雇用特例被保険者:特例一時金

(4)日雇労働被保険者:日雇労働求職者給付金

退職時、すなわち所得の源泉を喪失したとき、年齢が65歳を超えていると、(3)又は(4)にあたる就業形態でなければ、被保険者は(1)ではなく(2)のカテゴリーに属することとなり、その結果、受給できるのは基本手当ではなく高年齢求職者給付金となります。そこで、この二つの内容を比較すると次のとおりです。

(1)一般被保険者(退職事由が定年又は自己都合の場合)

被保険者期間 10年未満 10年以上

20年未満

20年以上
基本手当 90日 120日 150日

(2)高年齢被保険者

被保険者期間 1年未満 1年以上
高年齢求職者給付金 30日分 50日分

設問の社員が就業規則の規定に沿って定年退職すると、退職日には65歳を超えているため、高年齢被保険者にあたり、高年齢求職者給付金50日分が一括して支給されます。一方、65歳未満で退職すると、自己都合退職した一般被保険者にあたります。勤続30年であれば、150日分の基本手当が支給されます。ただし、受給のためには労働の意思があることを証するため、4週間毎にハローワークに出向いて失業の認定を受ける必要があります。

A2.退職事由は自己都合になります。また、就業規則の見直しは慎重に考えるべきでしょう。

このように見ていくと、設問の社員は雇用保険の給付金の支給内容を比較して、支給日数の多い基本手当を受給するために就業規則の規定よりも前に退職することを希望していることが分かります。その場合、退職事由は「自己都合」とするほかはありません。

ところで、自己都合退職の場合、雇用保険上、基本手当の支給開始までに2カ月間の給付制限期間(待機期間)を設けています。また、当該社員が既に老齢年金を受給していると、退職日によっては支給停止となることもあり得ます。更に、設問上明らかではありませんが、就業規則上、定年退職と自己都合退職とでは、退職金の支給率に差を設けている事例は少なくありません。

社員に対しては、これらを総合的に勘案して判断するようアドバイスすることが、最も行き届いた対応と言えそうです。

一方、会社側としては、こうした申出が増えた場合に備えて、例えば「定年の日を65歳に達する月の前月とする。」こと等が考えられます。ただし、そのことが様々な既存の規定に影響を及ぼすことも考えられるため、規定改正については十分慎重に検討することが大切です。